Amazon.co.jp: 標的(ターゲット)は11人―モサド暗殺チームの記録 (新潮文庫)
最近公開されたスティーブン・スピルバーグの映画「ミュンヘン」の元本。
イヤーな話。現実には「テーマ」や「メッセージ」など無いと思い知らされる。
1972年、ミュンヘンオリンピック。
パレスチナテロリスト「黒い九月」はそこで11人のイスラエル選手を人質に取るテロを行い、最終的に選手たちは殺害されてしまった。
イスラエルは報復のため、自国の諜報組織「モサド」の工作員を使い、パレスチナ過激派指導者11人を殺害する計画を立てる。
その役割に選ばれたのは、主人公の元特殊部隊兵士、文書偽造の専門家、爆薬の専門家、自動車の専門家、証拠隠滅の専門家、という5人。
彼らはそれぞれの技術を身に付けてはいるが、「殺し」そのものについては何も知らない。
そんな彼らも、技術力と資金力を生かし、これといった抵抗も受けずに標的を次々と簡単に殺害し、作戦を順調に進行させていく。
次々と殺す中で、人を殺すということ自体が簡単なことだと分かり、自分たちが殺されるのも簡単だということが分かるまでは…
そしてその予想の通り、仲間たちは次々とあっさり死んでいってしまう。殺し屋にやられる者、事故で爆死する者、犯人が誰なのかさえ分からない殺され方をする者。
主人公はこの殺し殺されるサイクルから降りようとするが、モサドはそれを許そうとせず、脅しまで使って骨の髄まで利用しつくそうとする。
- 前半は1段落進んで1段落カットバックというくらいに場面が行ったり来たりする文体で、物凄く読みにくいです。ちょっとがんばって中盤まで読み進めば、話が収束して大分楽になります。
- 主人公たちのチームは基本的に、地下組織「ル・ファミリー」に金を渡し標的の所在地情報や殺害手段や現場処理作業を買って動いていていくのですが、超スパイ組織というイメージのモサドでも他人頼りだというのが意外。だから「あっさりと殺される恐怖」も出てくるというわけです。
- 第三者への被害や自チームへの被害が0の「完璧な殺人」を狙うため、爆弾は標的が日常生活行動*1で自ら安全装置を解除してから工作員の無線でスイッチが入る仕掛けを作って使い、銃は音が静かな減装薬の小口径拳銃しか使わない。この地味で陰湿な感じはリアルで不気味。生活の中突然現れる死。
- 序盤から登場する「モサドに骨の髄まで利用しつくされ、燃えカスのようになってしまった英雄」という立場の主人公の父は、物語的には面白いけれど出来すぎていて何となく嘘っぽい感じです。