放課後は 第二螺旋階段で

「どうなるもこうなるも、なるようにしかならないのでは?」 筆者の気の向くままに書き連ねるクラシックスタイルのblogです。

「終着の浜辺」 J・G・バラード

終着の浜辺 (創元SF文庫)
Amazon.co.jp: 終着の浜辺 (創元SF文庫)

「時間の墓標」の改題復刊短編集。復刊本なせいか、文字が印刷されている形通りに紙が凸凹していて、何となくレトロな雰囲気をしています。翻訳は硬すぎて、やや読みにくいです。
表紙は詩的タイトルに合っていて端正な印象。

自分にとっての初J・G・バラード作品。1960年代前半に書かれた本ですが、全体的にかなり純文学系っぽい雰囲気で、古い作品という印象はあまりありませんでした。

以下各作品感想。


ゲームの終わり

思想犯として逮捕され死刑判決が出た囚人と、彼の無機質的な監視人との間の、チェスを通しての駆け引きの物語。
だが、その駆け引きという作業は死刑囚の自意識の中にしかないものだった。

悪夢のような物語です。
つまり、意味がよく分からないところがあります。
夢のように不条理な理論の不可思議さが面白い…かもしれない?

シナリオの本質と少し離れたところにある、死刑執行日をあらかじめ発表してしまうと、その直前に執行中止嘆願者が集まってきたり、事件の再検討が行われるようになってしまい面倒なので、死刑執行日は秘密にしておいて、犯人の存在を人々の記憶から消し、初めからいない人間だったかのようにしてから処理されるようにしているという論理は上手いと思いました。


閾域下の人間像

国土の3分の1以上が道路と駐車場という世界。
その道路のそばには100フィート以上の高さがある巨大な標識が立ち並び、それの基で人々は買い物と消費に狂騒する。
あるディストピアの点景の物語。

絶望さえ封殺されるさまを暗示するような最後の一文の表現は、絵的に非常にかっこいい。


ゴダード氏最後の世界

デパートの階長、ゴダード氏はセカイを手にしていた。

セカイの中の人が、セカイの果てへ梯子をかけようとするところが絵的にシュールでいい。
あと、人間的な意思を持たぬ者は怖いですね。幼児的残虐性ってやつ。それでどんなに恐ろしいことになったとしても、感情を少しも込めずに淡々と描き虚無感を出すこの著者の文体は、かなり気に入りました。


時間の墓標

死んだ人間がテープの中にデータとして記録されている砂漠の遺跡「時間の墓」を盗掘する青年。
彼が見つけた、あまりにも美しすぎる人間の記録と、それへの愛情の物語。
凍りついた時間の中から見出される、流れる時間の中で生きる人間の生滅する精神。そして、その精神を発生させた記録の存在意義とは。

復刊前には表題作になっていただけあって、面白さが比較的ハッキリとしている作品だと思います。


甦る海

深夜になると、町に打ち寄せ沈める海を見る男。その世界で海を見るのは彼だけだった。
男は、沈める海の岬で女を見る。海の世界で見る自分以外の唯一の人間である彼女は一体何なのか。

何となく「アフタヌーン四季賞受賞」って感じの雰囲気がする作品です。
「巻貝の化石」という物が持つイメージの使い方が上手い。


ヴィーナスの狩人

金星人に会ったと言う男。
彼は不完全な証拠品を示し、町の人々や天文学者たちは、絶対的不信のもとでそれについて興味を持ち楽しむに留めていた。
「神の存在は知っている、だがそれを信ずることはできない、ってやつですね」
しかし天文学者は、異星人を信じたいという思いの僅かな断片に引きずられてしまい、金星人に会ったという男にしだいに引き込まれていく。

どんなに意思の力で抑止しても、結局は深層心理の通りに動かされてしまうという変化の表現は興味深かったけれど、面白さという視点から見ると自分の好みではありませんでした。。。
この作品は1970年代にNHKでラジオドラマ化されていたらしいです。


マイナス 1

精神病院から、ヒントンという患者が逃亡した。しかし、ヒントンとは一体誰だったのだろう?
虚数のような人間に対する人々の奇妙な反応の物語。

ここで使った「虚数のような人間」という比喩は我ながら上手いと思い、気に入っています。


ある日の午後、突然に

ネタばれするとつまらなくなると思うので省略。
文字媒体ならではの物語。


終着の浜辺

巨大なコンクリート塊が立ち並ぶ死と滅びの象徴の場、第三次世界大戦の前兆の具現化である核実験場をただひたすら彷徨う男を描く濃縮小説。
前後関係を省略し、印象的なカットをひたすら並べたような構成。
安部公房っぽい世界の雰囲気。
トーリーらしいストーリーはありません。詩と物語の中間にあるような作りをしている作品です。

―いわばこの島は未来という時間の化石なのである。地下壕やブロックハウスこそ、生命を化石として記録するものは外皮とか骨格のみであるという原理を忠実に反映しているからでもある。

「さよなら、ロスアラモス」ふたたび一つのブロックが姿を消したようだった。彼をとりまく通路には別に変化はない―だがどこかで、彼の心の背景に重なり合うように、小さな中空の空間がカードのパンチのように抜け落ちた―彼は確信していた。
さよなら、ヒロシマ
さよなら、アラモゴード。
さよなら、モスクワ、ロンドン、パリ、ニューヨーク……