放課後は 第二螺旋階段で

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「宇宙に取り憑かれた男たち」 的川泰宣

宇宙に取り憑かれた男たち (講談社プラスアルファ新書)
Amazon.co.jp: 宇宙に取り憑かれた男たち (講談社プラスアルファ新書)

ロケットの誕生から国際宇宙ステーションまで、時代ごとの有名人をキーにして宇宙開発史を一通り見通せる一冊。普通の開発史には登場しないような怪人物や珍事件に関する記述も多いところがとくに楽しいです。


宇宙への旅の始まり

ロケット弾を束ねたもので飛ぼうとして爆死した1500年頃の中国の王冨を初めとする、大道芸と伝説的なロケットの時代。
耳が聞こえなくとも学業と研究に専念し、宇宙飛行の理論を作り上げたコンスタンティンツィオルコフスキー
その理論を引き継ぐように世界で初めて液体燃料ロケットを飛ばしたロバート・ゴダード
ナチス時代のドイツ軍でミサイルを作ることで、ロケット技術を急速に発展させたヴェルナー・フォン・ブラウン
存在を明かされぬままフォン・ブラウン率いるアメリカの宇宙開発と競争をしていたソビエトセルゲイ・コロリョフ……


日本にも宇宙に取り憑かれた人々がいた。

農民のお祭りロケット「龍勢
独力で地動説とケプラーの法則を発見した江戸時代の学者。
そして、常識はずれのエネルギーを持った戦後の研究の主導者、マルチ博士糸川英夫
この本の日本ロケットに関する記述は、江戸・明治・大正時代についても結構詳しく、昭和平成については実際に開発に関わった人ならではの内容なので、とても読み応えがあります。
糸川英夫という人についてのエピソードは、全てが極端すぎてとても面白い。
日本の宇宙開発に弾みをつけただけではなく、脳波測定器を作ったり、組織工学の研究をしたり、バイオリン職人になったり、バレエダンサーになったり(このときすでに60歳を過ぎていた!)、自分の還暦パーティを出席すると言ってないからと欠席したり。こんな人他に聞いたこともないというくらいの無茶苦茶さですね。でも、こういうエネルギーには憧れてしまいます(笑)



米ソの技術開発競争は進み、人類はついに月に到達する。

しかし、その後すぐに人間が月まで行く必要は無いという時代がやってくる。この時代には、遠くへ行く代わりに長期間宇宙に滞在する人々が現れた。彼らは宇宙生活で新たな世界を発見する。

日本人宇宙飛行士の中では長期の2週間ほど宇宙に滞在した土井隆雄の体験

土井さんは最初の一週間、なんだかからだがだるいような感じだったそうである。それが一週間を過ぎたあたりで、がぜん精神が澄み、五感が冴え渡ってきたという。
耳はよく聞こえる、においもよくわかる、目もよく見えるような感じで、いわゆる「アルファ波」がどんどん出ている感じなのであろうか。
彼の表現によれば、「人間の適応力の素晴らしさに感動した」のである。

ニュータイプ」は実在する?「そこか!」と言うときに出る頭のチリチリはアルファ波を表していたんですね。なるほど。


宇宙生活者の超常的体験や、強い平和への希求や、地球への愛情の感覚を知った後で出てきた著者の発想は……

私の提案は、「地球の人々が根こそぎ宇宙へ行って、地球を外から眺めてみようではないか」というものである。宇宙へ行かなくとも本当に素晴らしい人にはいっぱい出会った。でもそういう人は、やはり少数派なのだ。
地球を慈しみ、人間を愛し、地球上の生物と共存していこうと頭の中では考えることができても、日常生活のなかで徹底してそんな思想を生かし切っている人は少ないと思う。私は、社会のシステムを根本から変えなければ、結局人類は破滅の道をたどると考えている。「今のままではだめだ」という意識、「もっと地球を、人類を大切にしよう」という共通の心が、圧倒的に多くの人々に共有されることも大事だと思う。

何だか「逆襲のシャア」みたいですごいですね。でも、そう思うのは分かります。宇宙では「神」を見るというし。



最後にこの本の中から特に好きなフレーズを掲載。

「地球は人類の揺りかごである。しかし人類はいつまでもこの揺りかごにとどまってはいないだろう」
コンスタンティンツィオルコフスキー

「私は、月まで届くようなロケットを作りたかった。あの時代のドイツでそのような大型ロケットを開発できるのは軍だけだった。私は、人間を宇宙に飛ばす目的のためならば、悪魔と手を握ってでも働き続けたと思う」
ヴェルナー・フォン・ブラウン

「ぼくはいつも思うんですが、もしぼくが他の星から来た孤独な旅人だとしたら、こんなふうに地球を見ていて、どんな感じがするでしょうね。果たして人間が住んでいると思うでしょうかねえ」
ジム・ラベル