放課後は 第二螺旋階段で

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レシプロ時代のブラックバード 「世界の傑作機(No.38) 百式司令部偵察機」

 技術や思想で遅れがちだった日本が世界の流れを先取りして開発していた機種「戦略偵察機
 その代名詞ともいえる機体。
 戦闘機を振り切らんと速度に全てを賭けたデザインと、III型の風防と機首が完全に一体になったSF的なスタイリングがカッコイイ。名前も「百式」だし!
 ぼくは三菱製飛行機の妙に曲線的なスタイリングがだいたい嫌いなんですが、これのIII型だけは例外的に好きです。
 このページでIII型の美しいイラストが見られます。一〇〇式司令部偵察機
 以下読書メモと見どころ。

各形式について

  • I型

 零戦や一式戦隼と並ぶ速度が一応出たのでとりあえず採用という形で作られた極初期型。生産数はわずか34機。エンジンが「ハ26-I 瑞星」の875馬力でしかなかったから最大速度は540km/h。
 はてなキーワードには「初期型でも600km/hを越える」と書かれていたので直しました。

  • II型

 エンジンが「ハ102 瑞星」の1080馬力にパワーアップして最大速度は604km/hに到達。
 日本製量産機として最初に600km/hを突破!しかも抵抗が大きい空冷エンジンで!
 カメラもI型から大幅強化されました。
 ちゃんと性能が出たので最も多く生産された型。生産数1093機。
 現地改造で、対大型爆撃機用に37mm対戦車砲や20mm機関砲を積んだもの、両翼端を25cmずつ裁ち落として+10km/hしたものもあり。これらは扱いに難があったため正式な型にはなっていない。
 

  • III型
コスフォードのイギリス空軍博物館に今も展示されている百式司令部偵察機III型
コスフォードのイギリス空軍博物館に今も展示されている百式司令部偵察機III型

 私的に本命の型。
 風防と機首が一体の独特なデザインになったり、キャノピの枠が減らされて透明部分の面積が広がったり、防御機銃が廃止されたり、カメラがさらに強化されたり。
 現地改造で抵抗低減のために機体上面のアンテナ線支柱がカットされてノッペリした形が強調されていることが多いのも、見た目にカッコイイところです。*1
 「1km/hでも速い速度を!」という意志のあらわれが美しさと精強さを兼ね備えている。
 機首と風防が一体になったスタイリングは外から見る分には楽しいのですが、中から見ると視界がひずんだり夜間に光が反射しがちで不評だったとか。残念。
 エンジンのほうは「ハ112-II 金星改」の水メタノール噴射1500馬力にまでパワーアップ。抵抗低減の努力も相まって最大速度は量産日本陸軍機最速の630km/hにまで到達!これならF6Fヘルキャットだって待ち伏せしても一撃をかけるのがやっと。でも、レーダーで接近を探知し陸の飛行場から上がって待ちかまえるP-47サンダーボルト、P-51マスタングF4Uコルセア*2は650km/h以上出してくる機体なので普通に食らいつかれて普通にやられちゃうかも。
 生産数は611機。

  • III型甲前期型

 上の「III型」の項通り。

  • III型甲後期型

 プロペラが幅広タイプになった。スピナ先端の始動用フックが廃止になった。排気管が集合管から推進式単排気管になった。これで12km/hくらいスピードアップ。日本機の速度性能向上って小銭稼ぎ感覚があって独特……

 高々度での速度性能をかわれ、機首に「ホ5型 20mm機関砲」2門をつけ、正面がよく見えるよう風防を段付きに改修した対B-29戦専用仕様。この型で使われている段付き風防はII型に戻したのではなく、III型の先を丸くないように作り直したもの。

 本には「プラス」と書いてあるけれど、実際に「プラス」と呼んでいたのでしょうか?乙型の胴体に70度の角度で「ホ204 37mm機関砲」を斜め打ち上げ砲として加えた型。でも、37mm機関砲にはまともな照準器がなかったので当たりっこなかった。

  • 戦闘機仕様に使われていたほかの装備

 「タ弾」とよばれる対編隊用空対空クラスター爆弾もつくられた。子弾を効率よく詰め込むためか、六角柱型をしているのが特徴。
 空対空クラスター爆弾って敵の上を取らないと使えないのだけど、上を取れるほど高度や速度に余裕がある状況を作れるのなら、速度だけしか能がなくて戦闘に向かない百式司令部偵察機を持ち出すまでもなさそうなので、かなり変な装備だと思う。

  • IV型

 III型に排気タービンをくっつけた試作型。インタークーラが無くて水噴射で空気を冷やすのが特徴。III型では高度6000mで出ていた最大速度630km/hが高度10000mでも出せるようになりました。これは日本機としては凄い速さ!でも高々度性能がいいP-47サンダーボルトには普通にやられるかも。
 日本は戦争末期に耐熱合金が入手できず排気タービンがうまく量産できなかったというけれど、この機みたいに水噴射でごまかせば何とか量産できたのではという気も少しします。(さらに調べたところ、水噴射でごまかしても軸受けが壊れてしまうのでどのみち駄目みたいです)

構造的特徴についての余談

 II型まではキャノピがクロゼットのドアみたいに折り畳まれながら右に開くのがユニーク。ユニークだけど飛行中ガタつくと苦情が出たのでIII型では普通に後にスライドするタイプになったとさ。
 エンジンナセルが長く、翼の後縁まであるので、フラップとナセル後下端がフラップと一緒に下がる(一体なのかは不明)のもユニークなところ。

カラーリングについて

 百式司令部偵察機は部隊番号数字を図案化したマーキングが垂直尾翼に書かれているものが多く、これが皆センス良く非常にカッコいい!彫刻家の成田亨がデザインしたウルトラ警備隊メカを思わせる種類のスマートさ。気に入ったのでスケッチブックに順次メモイラストをつけてます。

 一例として、英国コスフォード王立空軍博物館保管機の写真を掲載しているページにリンク。この尾翼マークで「飛行第81戦隊」の「81」を表す。
RAF COSFORD[MITUBISHI KI-46]


 第二次世界大戦も末期になると、日本の防空機は従来のダークグリーンや灰緑色から赤茶色のカラーリングに移行していて、防空仕様のIII型乙系も赤茶色をしているんですが、この色は関東ローム層の赤土の色だったということはこの本で初めて知りました。地方で生まれ育って関東ローム層なんて見たことが無い自分は、負けが込んだら赤くなるという原理が全然分からなくてずっと不思議だった。


世界の傑作機」シリーズ内での位置づけ

 この本は「100式司令部偵察機」が好きな人専用で、この機種に思い入れが無い人は読んでもあまり面白くないです。
 (「世界の傑作機」はモノグラフですが、その機種に全然といっていいほど興味が無くとも読んで面白い号がたまにあるのでこの項を作りました)

*1:この改造で+5km/h

*2:艦載されるようになったのは極末期だけらしい