放課後は 第二螺旋階段で

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2060字くらいある燃やし賞応募作品

タイトル:白銅の墓標

 今日は逃さない。

 私を撃墜するためだけに、毎日しつこくやってくる敵国の迎撃機たち。だが今日は相手にしない。

 昨日発見することに成功した敵の中枢、飛行戦艦だけが私の相手。今日で勝負を決め、この戦いを終わらせる。

 エンジン推力を147%にまで上昇させる。一日限りの限界出力。猛烈な加速で機体は軋み、高速度による大気摩擦で機体表面の塗装は燃え上がる。最後の戦いで力の出し惜しみはしない。

 私の機は全ての迎撃機を振り切り、敵軍の指揮をとる中枢部、巨大飛行戦艦にまで到達する。

 あまりの高速度に戦艦を追い越しそうになる。火器管制システムはエアブレーキ展張による最適タイミングでの急減速を提案。それに従う。だが、エアブレーキは最適タイミングで減速を開始したまさにその瞬間、千切れ飛ぶ。迎撃機を振り切るときに被弾していたのか、あまりにも速度が上がりすぎていて耐えきれなかったのか。

 減速しきれない。

 やむを得ず追い越しざまの戦闘を開始する。

 巨大飛行戦艦は無数の対空レーザー砲の保護シャッタを開け一斉射撃体制に移行。私は横転、急激なマイナスG旋回でフェイントをかけ照準を回避。飛行戦艦を操る赤い糸のように張られた無数のレーザーの隙間を縫うように飛び、ミシン目のようにずらりと並んだレーザー砲のレンズを次々撃ち砕く。無数のガラス片は霙のように舞い散り、発振装置は赤い炎を上げて燃え上がる。

 燃え上がる戦艦があげる煙に巻かれながら、旋回によって減少した速度を補うために機体下部のマニピュレータで敵艦を蹴って再加速し高速離脱。第一撃は上々だった。

 上昇反転し再攻撃を狙う。次で止めを刺す。

 上昇に入った瞬間、煙の向こうの空域に押っ取り刀でやってきた敵迎撃機編隊が網を張っていることに気が付く。回避しようと急旋回。翼端からは飛行機雲。被弾し傷ついた翼は過加重に悲鳴をあげる。だがそれでも間に合いそうにはない。

 回避動作をとる私の機体のエンジンが爆散するのを感じる。高速機を撃ち抜く見事な射撃。

 もはや飛行を続けることはできなくなった。ただ重力に引かれ墜ちるのみ。

 物理学に慈悲という言葉は存在しない。

 私の、私たちの戦いは、私が撃墜されることで終わる。

 「負けで終わるのか?」

 数十秒の長い落下の末、私の愛機は地面と激しいキスをした。




 機体が地面に衝突するのを感じた次の瞬間、私は暗く、冷たく、静かなところにいること気が付いた。2分と経つより前まで行っていた戦いは、別世界のことのようだった。

 辺りを見回すと、空は限りなく黒に近い紺。星はまたたかない。

 遙か眼下には炎上し煙を曳く巨大な飛行戦艦。炎上している位置は、私が攻撃を加えた位置と一致する。間違いなく同じ艦。間違いなく私はまだ同じ世界にいる。

 私は、機体の管制装置により衝突する寸前に宇宙軌道上に配備された予備機へとデータとして転送されたのだろう。

 データリンクシステムによるエクステンド

 「これで再び戦える」



 新しい「私」は空間を漂う砲人工衛星の残骸から重砲を回収しマニピュレータに固定する。

 遙か彼方の敵飛行戦艦をより精密に見るために可視光センサに加え電磁気センサを追加で作動させ、第二撃のために降下開始。

 降下を開始してすぐに火器管制システムは超高々度からの精密射撃を指示。指示に従い射撃開始。素晴らしい精度の衛星砲の弾丸は、次々と敵艦に着弾し爆炎を上げる。

 この射撃で降下終了前に片をつける。

 だが、重砲は残骸から回収したものでしかなかった。残っていた弾丸はごく僅かだった。弾は敵艦を沈めるよりずっと前に尽きてしまった。

 弾が無くなりただの鉄塊と化した重砲に最後の仕事をさせるため、私は宙返りするように旋回をしつつマニピュレータで重砲を槍のように投擲。重砲は莫大な保持運動エネルギーに位置エネルギーを加え、戦艦の装甲を貫通し突き刺さる。一段と大きい爆発が見える。

 そのままさらに急降下。

 飛行戦艦の上空で再び迎撃機を発見。

 「私が二度同じミスをすることなど決して無い」

 先手を打って悠々と全機撃墜する。



 戦艦と同高度まで降下すると、対空砲は全て砕かれ沈黙していた。

 私は突き刺さった重砲のところでねじ曲がっている装甲をマニピュレータで強引に引きはがし、無防備になったところに射撃を加える。

 装甲の無い無防備な状態で攻撃を受けた飛行戦艦は、血のように真っ赤な駆動油を噴き上げつつ根幹部を破壊され燃え上がり、浮力を失い、高度を急激に失い墜ちていく。



 「私はこの戦いに勝利した」

 勝利の後聞こえたのは、自らの機体を駆動する音だけだった。

 勝利を称える者など、もはやどこにもいない。

 私に戦いを命じた人間たちがいつごろいなくなってしまったのか、思い出すことはできない。

 世界中を飛びまわり、ありとあらゆるセンサを稼働させても、探知することができたのは軌道上で私の意志を待つ無数の予備戦闘機たちだけだった。

 私の可視光センサには、涙を流す機能などない。



 (おしまい)



 白銅の100円硬貨、一つ入れたら今日もゲームの始まりです。

 シューティングゲームには「残機」があるのに何故「単機」で戦うのかという疑問に強引な回答を出してみたらできました。