Amazon.co.jp: シベールの日曜日 ブルーレイ [Blu-ray]
神話のような物語に感動。
幻のような…詩のような…絵画のような……。
理解を文字の形で固定できない。
元戦闘機パイロットのピエールは、インドシナ戦争で爆撃地点にいる子供と目が合った瞬間に撃墜された。
心身ともに深く傷つき記憶喪失となった彼はフランスに帰国し、静かに療養生活を送る……
「精神障害で記憶喪失の元戦闘機パイロット」は、その抽象性から現代における傷ついた英雄像として理想的。
そんな彼は駅で偶然、父から捨てられるように寄宿学校に入れられる少女を見かける……
おまけの人生を生きていてこの世に居場所がないピエールは、同じように居場所を失った少女を救おうと休日の日曜日に学校へ行き、父と誤解され会うことを許される。
その少女はキリスト教的ではないからフランソワーズと名乗らされている…本名はギリシャ語の響きの…風見鶏をとってくれたら教えるわと語る。この会話は俯瞰で、カメラのすぐ横に屋根の上の風見鶏があったのを見せる。映像的テクニックに加えて物語の寓話性を暗示させる。
そして場所を変え「結婚していないのでしょう?」エコーが自然とかかる場所でそう語りかけてくる。
走るクルマのバックミラーや水面の反射を利用した描写が作中世界の寓話性を一段と強める。装飾家具職人(?)が北斎のイメージを取り入れて製作していると話す場面がある通り、日本画のように作り上げられた画面。
少女はピエールに問う。
「ママを覚えてる?」(いや…と首を振る)「可哀想に。まるで孤児みたい」
「何でも言って。ママだと思って」「とっても愛しているわ」
「できることならずっと一緒にいたいわ。フィアンセですもの」
「ねえ、ソーダ水買って」
大人と子供を一瞬で往復する。
ピエールと少女が自分たちのものとした公園の樹を描いていた絵描きが言う。
「僕は美しいものを見るとすぐに描きたくなる。でもそんな時間は日曜日しかないんだ。妻も理解してくれない。私のこの情熱を。理解しないどころか避難ごうごうなんだ」
公園で少女のそばに集まってきて遊ぶ子供を、ピエールは大人の力で何故か蹴散らしてしまう。
その行動に対して少女が「あなた妬いてるの?」と言うときの得意げな表情が恐ろしい。
少女があまりにも強く可愛いから、戦争前からの恋人だった看護婦のマドレーヌさんまでどうでもよくなってしまう。
「もしあなたが来なくなったら私死にたい。冷たくなって棺に入れられ釘が打たれ、でもお墓に名前はない。誰も知らないから。フランソワーズだと全然意味がないもの。そして私は永遠にいなくなるの……」
魔性の少女。
そんな大人びた少女にとって、初めてのクリスマスイヴの夜がやってくる。今までは9時に寝かされていたから。
クリスマスの日。
遂に風見鶏をとってあげたピエールは指を切り、それを見た少女は血をなめて「もう他人じゃないわね」と言う。
そして「あれ見て」と、クリスマスツリーに掛かっている小さい箱をとらせる。ピエールが開くと中の紙には Cybele(シベール) という本当の名前。少女の贈り物は真の名前だった。
ギリシャの木と土の女神の古い名前だという。*1
少女は男の血を、男は少女の真の名を得る。
しかしその直後、風見鶏をとるためにナイフを持っていた男は警官に誤解されて射殺されてしまう……
「君の名前は?」見知らぬ警官なんかに聞かれたって、少女の真の名前を知る者がいない今となってはもう「名前なんてない もうない もうないの ないのよ!」と叫ぶことしかできない……
『シベールの日曜日』の神話的抽象化理解
記憶と力を失なった英雄、名前を失った少女、喪失者同士の共感、名前の無さは底知れなさも意味している、記憶と力の空洞を底知れない存在が埋めていく、窮極的接近である血の交感、その果てで遂に真の名前を取り戻し、けれども決定的喪失には抗えない。
ロリータ映画の代名詞といわれていた
少女役のパトリシア・ゴッジには女と子供が合わさった魅力があり、悪魔的とさえいえるほどです。
フランス映画に出てくる子供は言葉自体のふわふわ感と舌足らずさが相まって抗しがたい魅力があります。
それとあと、白い帽子をすっぽり被って、子供ワンピースの上にロングコートで倒木の上を手でバランスをとりながら渡るのが可愛いかった。(細かすぎる視点……)
セカイ系的構造美
ピエールとシベール、たった二人の分かり合える世界が生まれたばかりに社会から隔絶されていく。
セカイ系と呼ばれることのある作品特有の美しさに近い印象を受けました。
幻想的恋愛ストーリーを描く人の原型になっているのではないかと思います。中でもいわゆる「泣きゲー」は今作の末裔とさえ。
構図と画角
今作は昔テレビで放送されたこともあるようですが、それでは画角が狭く、墨絵のような絵画的構図を意識している今作の特長がかなりそがれています。
最近ようやく画の力が生きるHDリマスターDVDが発売されました。
アンニュイなフランスには訳がある
フランス映画が気だるいのは、第二次世界大戦がようやく終わったその直後からインドシナ戦争やアルジェリア戦争と長年にわたって戦争が続き精神的に疲弊していたためでは。『シェルブールの雨傘』でさえ恋人は戦争に出征していく。
8年間の戦争で、フランスは航空機177機を喪失した。フランス軍は7万5000人、フランス軍以外のフランス連合軍は1万9000人が戦死し、7万 8000人が負傷した。またベトミンは兵士50万人の死傷者と25万人の民間人戦死者を出した。
第一次インドシナ戦争 - Wikipedia
戦死28,500人 負傷者65,000人
アルジェリア戦争 - Wikipedia