放課後は 第二螺旋階段で

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「空のよもやま物語―空の男のアラカルト」 わちさんぺい

 著者は民間の航空機整備学校のち陸軍航空審査部で終戦まで勤務。
 ターボつきの百式司令部偵察機IV型*1や、陸軍空母の艦載哨戒機になった三式指揮連絡機*2といった珍しい機種の開発に自然体で関わった10代の思い出物語。
 本書執筆時は漫画家という経歴は、兵器関係のイラストエッセイを書くのに最適といえるでしょう。


 スピン試験でくるくると回る秋の大地、背面飛行で落ちる機内のホコリ、エンジン始動時のミスで始動車にプロペラを接触させて破壊したときのショック、それを流してくれたノモンハン事件で顔に重度の火傷を負った上官の優しさ、先輩が操縦する機で空き地に着陸して農家からみかんを買って帰る寄り道…


 急降下中に700km/hを越えられるP-39エアラコブラの速度は拳銃弾と同じなのでキャノピーを開けて後ろ向きに発砲すると弾は真下に落ちるという雑誌の記事を読んだ後の、同僚との議論や列車に乗っての慣性の実験。

 後ろをとられて絶体絶命の瞬間おにぎりを投げ捨てたら、驚いた敵機が勝手にマニューバキルされたという奇跡の生還の噂。


 本土防空戦以外では戦闘に参加することはなく、新型航空機が試験のために配備され規則が比較的柔軟な部隊に配属された飛行機好きの著者の目線は、楽しかったことは楽しく、辛かったことは美しく描き出しています。


 オーラルヒストリーの専門家である御厨貴は、インタビューでお年寄りから記憶を引き出すとき、そのままずばりと質問するのではなくて、当時の周辺の状況などのアンビエントな情報を投げてみると自然と記憶が引き出されて話がよく膨らむと云っていたそうですが、この本から受ける感覚はその「アンビエントな情報」そのものです。