放課後は 第二螺旋階段で

モバイルでは下部のカテゴリ一覧を御覧ください。カテゴリタグによる記事分類整理に力を入れています。ネタバレへの配慮等は基本的にありません。筆者の気の向くままに書き連ねアーカイブするクラシックスタイルのなんでもblog。「どうなるもこうなるも、なるようにしかならないのでは?」

「補給戦 ―何が勝敗を決定するのか」 Supplying War マーチン・ファン・クレフェルト

 意識的な軍事知識補強シリーズ第一弾として読了。自分の骨となり、読む前の状態を想像できなくなるほど効果的でした。

 「戦争遂行」という行為が最弱リンクモデル的思考で考察されています。鎖の強度を決める最も弱い輪に当たる部分、それが補給。そして補給の中にも弱い輪が存在。

 「素人は戦略を語り、プロは兵站を語る」と云われるものの、プロらしく語られる兵站の内容についての問題点を認識できるようにもなりました。
 このエントリは、読書中に現れた著者に対する疑問、ミリタリーファンの理解様式に対する疑問(物資輸送に注力すれば解決するという問題ではない)を前面に出した読み方です。

グスタフ・アドルフと中世戦争

 戦術の革新者として著名なグスタフ・アドルフも戦略面では補給のくびきから逃れられないことが序盤で語られる。
 軍それ自体が動く超高人口密度地帯で、侵攻が停止して新たな徴発可能地帯を得られなくなると飢えて自壊してしまうので、特に勝利につながらない進軍・戦闘・占領を行わなければならない。1日でさえ貴重。同じ道は通れない。新たな土地を得続けることが存続唯一の手段。喩えるならば泳いでいないと呼吸できないマグロ、あるいは地図上の紙魚
 そのため、籠城戦の攻勢側は周辺地域を完全に略奪して荒廃させると維持不能となり、食料の集積保管が可能な防衛側が思いの外有利。

 輸送技術・動力が発達していないため、補給全体における後方からの輸送の専有比率が低く、人力もしくは馬力による陸上輸送能力はごく短距離でしか有効でないため、船が使える川沿いの進軍のみが有効で、戦略はそれに拘束される。また、消費量の多い飼い葉がネックとなる。

  • この時代について一言でまとめてしまうと「輸送で補給は不可能」

 疑問点も多い時代で…

  • 攻城戦など根本的に行わず、てきとうに進軍略奪し続けるだけで敵国に致命的なダメージが通ってしまうのでは?
    • 国民国家以前なので破壊による厭戦勝利は不可能か?
      • 略奪を主、戦闘を従どころか無視した進軍という曖昧な決定を下せる中世指導者などいない。(戦略的可能性あれど政治的不可能)
      • 王権神授・絶対王政時代ならば可能であり実行された?
  • 古代ローマ帝国は数万という中世より遙かに大規模な軍で欧州全体さらにはアフリカの広範囲で自壊せずに活動していた。
  • アレクサンダー大王は数万の軍をインド付近まで進めることに成功している。
  • モンゴルはアジアを広域的に征した。
    • 中世からルネサンス期にかけて補給能力・土地面積あたりの収穫量が著しく低下していた?
      • 「すべての道はローマに通ず」どんな場所にでもローマ軍は高速行軍でやってくるという意。
  • 日本や中国では数万の軍が補給に困らず内戦を続けていた。攻城兵器なしで時間決着による攻撃側勝利で終わる籠城戦も多数発生した。
    • 米は面積あたりのカロリー生産量が麦の数倍に達するため、支えられる人口が大きいのか?
      • 兵の数の数え方が根本的に誤っていた?
  • クラウゼヴィッツ批判になっている部分について『戦争論』未読の自分が理解できていない要素が多数。
    • 略奪や補給の破壊によるダメージは戦争の結果、すなわち政治につながるのか?戦争は政治の一手段論に対する意見があるものの十分な解読は現在不可能。

ナポレオンと前近代戦

 馬力輸送による補給の限界に挑戦したのがロシア遠征時のナポレオン。
 不毛の地ベラルーシという真空地帯をいかにして横断するか。
 大量の食料備蓄と事前前線配置そして輸送である。

 しかし残念ながら、馬や人間がどれほど努力しても、道路容量の限界すなわち渋滞と破壊、それ自体が物資を消費する補給線の長さによる限界に到達。物資の備蓄がたとえ無限大でも無意味。

  • この時代について一言でまとめてしまうと「輸送に全力を投じても経路が破綻」
  • 軍団制を採用して会戦のときだけ集結し行軍時は別々の地区を通るおかげで道路容量限界に達することなく、徴発物資の枯渇も発生せず飢えないというのは、意図的なものか、偶然なのか…
  • 行李がなくなって行軍速度が向上したため徴発可能エリアが拡大して大軍の運用が容易になったというのは、思いつくか否かだけに近いため納得しがたい変化。
  • 「野戦憲兵の交通整理」はミリタリー模型でよく題材になっているシーンだが意味がよく分かっていなかった。かれらは現在の鉄道における「閉塞」の概念に近い作業を行なっている。上りと下りがかち合わないように道路容量をコントロール
    • 必要以上の輸送馬車は道路容量を専有するばかりで全体の進行速度を遅らせてしまう。
  • 私の時代背景に対する知識が薄い上に要求知識レベルが高めの書き方だったため、理解レベルが特に低い時代です。

モルトケと近代戦の到来

 馬から鉄道の時代へ。鉄道化以前と全く比較にならない高速化が一気に達成された。
 しかしながら、たとえ大量の物資を搭載し高速で目的駅に到着できる列車があったととしても、前線近くの兵站駅で下ろしきることができず、貨車の送り返しダイヤを編成できず、線路は敵軍の妨害はもちろんのこと運用そのものでも破壊され続け、そうまでして下ろした物資も駅から前線までは結局人馬力輸送でしかない。

  • この時代について一言でまとめてしまうと「いくら速く物資を動かせるようになっても同様に高速化した軍には荷役の重みで追いつけない」
    • 荷役駅に未開封状態の貨車が山積み。
      • 現地徴発に頼る体制は続く。
      • 攻城戦状態に入った時のみ補給部隊が追いつける。
  • 複線の輸送力は貨車の送り返しや閉塞の関係で常に単線の倍以上。線路でなく道路でも同様。

ロンメル、東部戦線、ノルマンディー上陸作戦と現代戦のはじまり

 自動車化時代到来。この技術は鉄道と異なり線路建造の手間が必要ない代わりに容量は全く小さなものでしかない。
 コストに見合うのか。否。有力な鉄道に割り当てられるべき資源を削いでしまった。

 ロンメルは補給軽視と云われる元になったのがこの本における考察。しかしながら、軍はただそこにいるだけでは全く無意味で、敗れるのを待つだけとなるので、移動そのものによる消耗が激しく攻勢限界距離が大目標達成不可能程度でしかなくとも、積極策に出て圧力を加えるのは妥当では?

  • この時代について一言でまとめてしまうと「輸送そのものは可能でも処理が不可能」
  • 「逆襲」の概念が一冊を通して全体的に薄い点が根本的疑問。敵軍が通過し略奪された後の不毛地帯、交通網も破壊済みの状態で押し返す際に補給が破綻しないのは何故か?具体的にいえばバグラチオン作戦に成功したのは何故?
  • 意外と強力なのが空挺補給。道路の容量制限と無関係で何よりも高速で機動できるので、突出した部隊に追いつき集中しての大量投下が可能で、重量ベースでも自動車並。
  • ロンメルの補給におけるネックは港の荷揚げ能力。輸送船護衛に成功しても失敗してもどのみち物資不足で連合国軍を完全に排除するだけの侵攻は不可能という… 港の能力向上には一体どれだけのコストがかかるというのか。改善策はなかった?

補給戦と唯物史観

 「下部構造の生産技術が上部構造である社会制度を動かす」という唯物史観に似た感覚があり、独特の「補給戦史観」としか表現できないようなところがあります。
 馬車、前線近くの軍需品倉庫建設と保存食の発明、行軍時の携行品見直しによる高速機動化、鉄道化、自動車化、航空化等々の技術変化が、戦略ひいては国を動かしている。