放課後は 第二螺旋階段で

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その正論が自らを殺す 魔法少女まどかマギカ 第7話 「本当の気持ちと向き合えますか?」

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あらすじ

 キュウべえの人間ソウルジェム化にショックを受けたまま帰宅したさやかは、通常の人体では戦闘になんて到底耐えられないから便利じゃないかと槍で刺殺される痛みを体験させられるのだった。

 それは到底生身で耐えられるものではなく、杏子との戦闘で生き残ることができたのもこの力によると説明されると、全く正論で反論する余地はない。

 翌日。学校屋上にて。まどかはほむらから「不可能を可能にするのは人の命でも贖えない」「一生をかけても不可能なものを可能にする、それを奇跡という」「キュウべえがそんな異常な取引をばら撒いているということは、誰に何度説明しても分かってもらえなかったから話さなかった」という語りを受ける。

 一方ショックで寝込んでいたさやかは杏子からテレパシーで呼び出しを受け、杏子の父親が運営していた教会跡地へ。

 杏子が過去に願った奇跡は「父の正しき新宗教が人々の信仰を集めること」

 一時は大成功するものの、杏子父は魔法の力で得た信者は本当の信者ではないと考えてしまい、精神崩壊、一家心中。杏子一人だけが生き残ったという。

「奇跡の分だけ絶望が撒き散らされる、世の中そうできているのさ」とほむらの奇跡論を受けたかのような発言をする杏子。
 
 さらに翌日。さやかは仁美から「上条くんをお慕い申しております」「あなたは本当の自分の気持と向き合えますか?」と正直に申告され、ショックの追い打ちを受ける。その時「仁美を救わず見殺しにしておけば良かった」と思ったことそのもので、正義を貫き通せないことに絶望。

 その夜の魔女空間は影絵の世界。自棄になったさやかは狂戦士状態に。

「本当だ……!その気になれば痛みなんて、完全に消せちゃうんだ!」
 身体を切り裂かれながらも構わず魔女を撃破。
「やめて、もうやめて……」と悲しむまどかの声と共に、次回へ……

回想と感想

 人間というものは自由に辞めたり始めたりできるものではない。個人という小さな土台の上に高く積み上げられた巨大な奇跡は重みに耐え切れず崩れてしまう。奇跡は起こらないから奇跡。

 以上が初見時の感想です。


 この回は「正しさだけでは誰も幸せにしない」描写が高密度で詰め込まれています。

 サイボーグ化して戦闘力を高める必要があるため行われたソウルジェム化。従来宗教以上の正しさを求めて作られた杏子父の新宗教。他人のために祈った気持ちを裏切らないさやかは杏子が生きるために盗んだ林檎さえも受け取れない。

 それが心の破滅を招く。

 第6話でまど母が「正しすぎる人のために間違ってあげればいい。ずるい嘘をついたり、怖いものから逃げ出したりして」と語っていた状況がさっそく現実のものとなります。親切設計です。

 初見時は「非人類に心で抵抗するのは無意味」*1キュウべえが嫌キャラではなかったのですが、正論の強さを信じていて厳格な見方をするほど嫌悪感が強くなるのではないかという印象が今はあります。


 今回のもうひとつのテーマである「奇跡」については、まどか・ほむらグループとさやか・杏子グループで話が綺麗につながっていて、展開の圧縮が見事です。見事すぎて不自然という意見も分かります。けれどもその異様なテンションが面白さにつながっています。面白すぎて、再見だと若干シュールギャグっぽく見える部分も。


 暁美ほむらについて、岡田斗司夫の感想で「ホワイトボードを用意して全員集合させて説明会をしろ」というものがあり身も蓋もなさに笑いましたが、今回の行動についてはその通り。説明不足とタイミングの遅さがキュウべえ並。戦闘力の割に説明力が低すぎます。でも、この要素まで後のエピソードできちんと理由が説明される所がこのシリーズの芸の細かい所。

細か目の感想

  • 毎回書いている気がしますが、夜の街では必ずクルマのロードノイズを入れて細かな音で都市の雰囲気を作る作品です。音楽に例えるならベースが良い曲に近い音作り傾向。
  • 群馬にブルジュ・ハリファが建ってるー!昼間遠景に一瞬写るだけでシナリオ上の意味は無し。
    • 今作の建築物は無意味に巨大で人心を阻むところに意味があります。
  • 廃教会がシナリオの重点になるちょっと西洋文化が入った表現に香港映画感再び。
    • 香港映画は1997年の中国返還から急激に衰退したため、中高生層は雰囲気を知らないひとが多数派かもしれない?
  • 教会跡のシーンで使われるアコースティック・ギターアレンジの『営業のテーマ』が好。
  • 杏子の紙人形劇の説明シーンはベスト・オブ劇団イヌカレー。画的にリアルでないキャラクタがさらにリアルでないものを操っているバランス感覚がユニーク。
  • 杏子の林檎と正義の話で、パンを盗む話から始まる『レ・ミゼラブル』未読なことを思い出しました。
  • このシリーズを通して悠木碧の演技が本当に素晴らしいです。「そんなのってないよ……!」というショックを受け続けることで、SF系の奇妙な説明が続いても物語のテンションが維持されます。

2013年11月25日の追記:この作品は2013年12月25日にBDBOX版が発売されます

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*1:いわゆるソラリス的知性