Amazon.co.jp: 増補 スペースシャトルの落日 (ちくま文庫)
空を飛ぶということ
素晴らしい性能を持っているかのように見える、翼を持った未来的デザインのスペースシャトル。
だがそれは無理に無理を重ねた無駄だらけの機械だった。その無理と失敗についての本。
始めにスペースシャトルの性能や構造を宇宙機ファンでなくても分かるように解説して、その後それらを否定するかのように次々と弱点を暴いていく構成で、読みやすくて面白いです。
広面積で破損確率が高く大質量なのに空気があるごく狭い範囲でしか仕事がない翼、人間と荷物を同時に打ち上げる非効率性、危険性があるブースターと乗員脱出手段の無さ、再利用可能でも実際に再利用するのには手間がかかりすぎる全て…などなど。弱点が一杯のスペースシャトル。
以前リンクしたページに掲載されていた、ソ連の「ブラン」用ブースターは翼が無くて*1、普通に棒型なロケットが頭から再突入するというやり方でも再利用できていたし、翼が無いシンプルなカプセル型有人宇宙機でも、降下速度が超高速なおかげで空気抵抗でちゃんと減速できていて、核ミサイルの弾頭と同じようにかなり正確な地点に降下できていたのを考えると、翼を採用したのは特に不思議な感じがしてしまう。
ここのアニメーション参照
http://homepage3.nifty.com/junji-ota/B/BUbun.htm
それと、スペースシャトルのロケットとしての打ち上げ能力は120トンもあり、そのうちの半分以上で地球に再び帰って来る「オービター」を打ち上げているというのは、あまりにも大きな無駄で驚きました。人機同時打ち上げが必須なことなんてそれほど多くないでしょうから…
これほどの大能力を持っているのなら、同じエンジンを使うけれど人間が乗って地球に帰ってくる部分無しで打ち上げ能力の全てを荷物運びに使える、再利用作業コスト0の「ふつうロケット」でも作ってやれば、国際宇宙ステーションなんぞアッという間に建造できてしまうのでは?「打ち上げ能力120トン」は、現行スペースシャトルの5倍に近い数値です。
「ソ連の衛星を宇宙から拾って帰れる」ということも開発時に考えられていた人機同時打ち上げの利点だったそうですが、カプセル有人宇宙船と一緒に「回収ケース」を運び、それに衛星を入れて地球に落とすというやり方はできなかったのかな。こっちのほうが何となく安く上がりそうな気がします。
(この記事は増補版発売前の単行本版のものです)
*1:ブラン本体には翼があるので、それはそれで謎。高度の違いのせい?