Amazon.co.jp: 春の雪―豊饒の海・第一巻 (新潮文庫)
熱い掌に、雪は落ちると見る間に消えた。その美しい手は少しも汚れていず、肉刺一つ出来ていなかった。
ついに自分は、生涯にわたって、この優美な、決して土にも血にも汚れることのない手を護った、と清顕は考えた。
ただ感情のためだけに用いられた手。
三島由紀夫の遺作にあたる輪廻転生をテーマにしたシリーズ「豊饒の海」の第一巻。最近映画化もされたようです。
舞台は、貴族が優雅に暮らしていた大正時代。
侯爵の家に生まれ、生まれながらにして美しさと力を持ち合わせ、人生の何もかもがあらかじめ組み立てられていても、それを意に介さないところがある青年、松枝清顕。
その彼でさえ絶対に敵わない法と戒律により隔たれ、本人の意思と無関係にあるいは無意識的に人生が組み立てられた伯爵令嬢、綾倉聡子との絶対成就不能な恋愛、そしてそれの終わりという最も美しい瞬間に最期を遂げる命を描く。
綾倉聡子が素晴らしく美しく、生きてしまった役者では演じることが不可能なくらいの優雅さと不可解さを持っているというのは分かるけれど、ほとんど全てが満たされた人間が1人の人間に執着するという感覚自体がどうしても分からなかったので、話としての面白さはあまり理解できず…自己完結主義的過ぎる感覚か。
目に映る映像、映らない読み方、それを併せての描写は最高に素晴らしい。この著者の本を沢山読むとただそれだけで綺麗な日本語を知ることが出来ると思う。
海の無数の波が果てしなく長い旅の末、沖で砕け怒号をあげ、次第に緩やかになりながら砂浜へ進み、最後は静かに優しく潰えて引いていくさまに歴史と世界を見るという砂浜の場面の描写は、美しく思索的で特に気に入りました。
少し前から恋愛ものの面白みが分かるようになり始めたけれど…
機械的性格なせいか、恋愛という行動に含まれる執着の感覚がどうしても分からない。
同著者がこういう傾向の人間を描いた「沈める滝」を読んでみたら良いかな?
人間に対して即物的な感心しか持てず、それでも人工の友情や恋愛をつくろうとする人物が主人公の物語。