放課後は 第二螺旋階段で

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「ヴァーミリオン・サンズ (ハヤカワ文庫SF)」 J・G・バラード

ヴァーミリオン・サンズ (ハヤカワ文庫SF)
Amazon.co.jp: ヴァーミリオン・サンズ (ハヤカワ文庫SF)


著者のJ・G・バラードが自ら住みたいと語る未来の砂漠リゾート「ヴァーミリオン・サンズ」を舞台にした連作短編集。
解説に、著者が絵画に小説以上の興味を持っているという話が載っていますが、それに見合ったシュルレアリスム絵画を実体化したような不思議な美しさでいっぱいの世界。
人間ドラマなどは、その美を損なうものでしかないという感じがするくらい。
あとは、ものすごく衒学的。


コーラルDの雲の彫刻師

夏になると、ヴァーミリオン・サンズのパゴタを思わせる白い尖塔「コーラルD」の上空では、彫刻師たちの色とりどりのグライダーが飛び回る。
彼らは上昇気流に両肩を支えられながら、雲に一角獣や映画スターの肖像を刻んでいくのだ。
彫刻となった雲は、太陽のほうへと流れるうちに、涙を思わせる雨となり、観客たちの埃を被った車の屋根に降り注ぐ。
そんな彫刻師たちのもとに、パーティで自分の肖像を雲に彫刻して欲しいという依頼がくる。



雲の彫刻の描写がとにかく美しい作品。
乾いた夏の空で、雲は刻まれ壮大な彫刻となり、破片は雨となり儚く散る。荒々しい積乱雲を刻む不安。風に吹かれて変形する彫像たちのおかしみ。
それを想像する気持ち良さ。


プリマ・ベラドンナ

ヴァーミリオン・サンズの花屋で歌う植物を売る私のもとに、金緑青の肌と2匹の昆虫に似た目をした美しい歌手の女がふらりとやってくる。
彼女はその声で、歌う植物たちを調律し、同時に狂わせもするのだった。


J・G・バラードのデビュー作。
楽器が実在せず発音原理も現実のものとかけ離れていて音色が想像できない音楽小説は、どういう世界なのか想像がつかないので、読むのが非常に難しい。。。


スクリーン・ゲーム

ヴァーミリオン・サンズの芸術家のたまり場で、リゾート地特有の倦怠の中に生きていた画家のもとに、小国の国家予算を上回るほどの費用をかけた超大作映画の書き割りを描くという巨額の仕事が舞い込む。
画家は依頼通り数十の書き割りを描き、それらは放射状に並べられた。しかし、実際に使われる物は中心部のごく一部でしかなかった。
映画の撮影という作業が出演女優の幻想を満たすために用意されたゲームにすぎなかったので、それで十分だったのだ。


「スクリーン・ゲーム」というシチュエーションは面白かったけれど、その後に出てくる「宝石が埋め込まれた昆虫」に関することすべての意味が全然分からない。

歌う彫刻

ヴァーミリオン・サンズのギャラリーで音響彫刻を売る男。そこに客としてやってくる、音響彫刻の音色というものが自分のためだけにあるとひどく入れ込む女。


あらすじどころか映像さえほとんど覚えてないくらいの話でした。。。
音響彫刻を集める女の住む建築物の吹き抜けや階段やテラスが非常に複雑な配置の開いた構造をしていて、その抜ける感じが気持ちよかったくらい?


希望の海、復讐の帆

砂上ヨットに乗り、ヴァーミリオン・サンズの砂海へ砂エイ狩りに出かけた男。彼は事故で遭難してしまうが、他のヨットに拾われ、砂漠の中の奇妙な楽園へと向かう。
その楽園には、砂海に消えてしまった恋人を捜す女が住み着いていた。
そして、男が楽園で過ごすうちに、時間をかけて姿を取り込むことで描かれ、時間ともに絵画のスタイルも変化するキャンパスを使った肖像画が描かれた。だが、それにはその場にいなかった人間が余計に描かれてていた。一体何者なのか。


砂上ヨットって現実にもある乗り物ですけど、絵面はかなりSFっぽいですね。
ミステリ要素の発生の原因になるキャンパスは未来念写という感じでおもしろい。
この作家の人が書く女性って皆偏執狂的なところがある気がします。。。


ヴィーナスはほほえむ

ヴァーミリオン・サンズの中心の広場に設置する音響彫刻について、競作が行われた。そして、もっとも奇妙な作品が選ばれ、それは街の人々から嫌われ、たちまちのうちに撤去された。
やむを得ず引き取った芸術委員会会員の庭で、音響彫刻は凄まじい変貌を遂げる。


筒井康隆の短編でありそうな展開?
ラストシーンの音楽に包まれた世界でのダンスは「さすがイギリス人」と思わせるようなスマートな格好良さです。


風にさよならをいおう

空気や人間の意志に反応して姿を変える生きた服を扱うヴァーミリオン・サンズのブティック。そこに、生きた服の誕生に関わったモデルがやってくる。服が開発された数十年前と変わらぬ姿のままで。


シーン単体では面白いけれど、シーンとシーンを繋ぐのに使われる論理にかなり無理があるので、バラバラな作品という印象。


スターズのスタジオ5号

ヴァーミリオン・サンズでの夏の間、私の元には、美しい隣人が奇妙な詩を刻んだ無数のテープが砂漠を漂い渡ってくる。
私は詩の雑誌の編集者で、今や詩を読む者はおらず、詩を書くのも機械という時代になっていた。だが、隣人は人間の手で詩を書くことを狂ったように望むのだった。


「おはなし」としての出来ならこれが一番かな?
それでも、オープニングシーンの、詩が刻まれたテープが流れ着いて窓やテラスに蔦のように絡みつき、家を埋め尽くす様子のおもしろさが一番印象的。


ステラヴィスタの千の夢

いまではヴァーミリオン・サンズを訪れる者とてないし、おそらくはその名を耳にしたことのある人もまれだろう……
最後は滅亡しないと気が済まない著者による最後のエピソード。
廃れたリゾートに家を買う夫婦。彼らが買った家は、居住者の精神に反応し構造を変える家で、その家の以前の居住者は夫を撃ち殺した有名女優だった。
夫は、女優の意志が焼き付けられたかのような家の反応を試し、それを読みとろうとする。


物神発想の作品?人間を囲ったり覆ったりする物に憑いた強い感情が生のまま出てくるのは、気味が悪い。