Amazon.co.jp: 数学的思考法 説明力を鍛えるヒント (講談社現代新書)
「数学」という学問を学ぶ中で身につけるべき技能とは何か。それは「条件反射的なやり方」や「計算能力」ではなく「試行錯誤能力」と「それの各段階を把握し説明する力」である。
「やり方」だけだと一般性が無く、ちょっと使わないとすぐ忘れてしまい発展性もない。その一例が、数年前に話題になった「分数ができなくなった大学生」である。彼らは小中学生の時には「やり方」を知っていたが、「何故そうするのか」の原理を分かっていなかったせいで、少しの間使わなかっただけで分からなくなってしまった。
「試行錯誤」が無いと、短絡思考で結論だけを求めるようになり判断を誤る。「文系には数学は不要」という考えもあるが、それでは勝つことはできない。特に経済分野では顕著である。
「試行錯誤能力」は、「正確な問題発見と仮定」「問題の核の把握」「試行」「適切な一般化」「思考の訂正」といったステップの複合体で成り立っている。これらの多数のステップそれぞれを他者にも説明できるくらいにきちんと把握しておき知識に奥行きを持たせることは、高い発想力とひらめきの元になり重要である。ひらめきはただ待っているだけでは絶対に現れない。努力しても成功するとは限らないが、成功した者は必ず努力している。
このような主張を、具体例を出しながらまとめた一冊。
本職の数学者がこういう主張をしているというのは、マークシート式試験に代表される厳しい時間制限下での「やり方」競争が苦手で、時間をかけての「試行錯誤」が好きな自分としてはうれしいのですが、学校という場での評価システムはそう変わってくれはしないという諦めに近い感覚もあります。。。「やり方」教育をしているのは先進国では日本くらいで、かけ算暗記で有名な数学国インドも、実際には圧倒的な量の試行錯誤をさせているみたいなのに……
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http://blog.mf-davinci.com/mori_log/archives/2006/02/post_260.php
引力とは何か、何故それが生じるのかを答えられなければ、レベルは同じだ。
ここで言われている「単語を知っているというだけのアドバンテージ」は、上の文章で書かれている「試行錯誤能力の無さからくる短絡思考」とほぼ同じニュアンス。この場合は「問題の核」を把握しきれていない。