- 作者:岡部 いさく
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 単行本
岡部いさくのメカ読み物シリーズ、自動車業界にまで進出。今回は自動車と航空機両方を扱ったことがある会社のエピソードを中心に紹介。
この本は自動車誌「NAVI」に連載されていたものをまとめたもので、模型誌系の連載と比べると読者の想定前提知識少なめ・オタク度低めな文体になっている印象です。
登場メーカーはベントレー、ブリストル、BMW、アルヴィス、サンビーム、ヴォワザン、アブロ、オースチン、ルーツ、マトラ、スパイカー、カワサキ、フォード、GM等々。生き残っているのかも分からないメーカーの悲喜交々、あるいは意外な大自動車メーカーの航空機との関わり。
他にも、飛行機のバックミラーやカードアタイプの戦闘機など、自動車と共通したデザインについてのエピソードを掲載。
テクノロジーつかみ取りチャンスなのに
イギリスのブリストルは第二次世界大戦勝利というチャンスを生かして、ドイツで開戦前に開発されたBMW自動車用直列6気筒2Lエンジンの技術を頂きます。
何故こんなしょうもない部類に入るような技術をわざわざ持っていったのでしょうか。
星形18気筒53Lスリーブバルブのハイテクエンジン・セントーラス*1を作れたブリストルが、よりにもよってこれを選ぶって…
しかもブリストルはこのエンジンを後生大事に、1960年ごろまで使ってしまう不思議。
コブラができるまで
アメリカ狂気のスーパースポーツ「コブラ」ができるまでの道筋がこの本でようやくはっきりしました。
その展開は以下の通り。
- 大戦間にBMWが自動車向け直列6気筒2Lエンジンを作る
- 第二次世界大戦
- イギリスはBMWエンジンの設計をドイツからとってくる
- ブリストルでBMW直列6気筒2Lコピーエンジン生産開始
- ブリストル製のBMWエンジンをAC社に供給
- ACエースブリストル誕生
- ACエースブリストル、アメリカに渡る
- ブリストル、BMWエンジン生産停止でACエースブリストルはエンジン入手不能に
- エンジンが無くなったACエースにフォード製V8気筒4.2Lエンジンを入れてACコブラ260誕生
- ACコブラをさらにパワーアップ、フォード製V8気筒7Lエンジンを入れてACコブラ427誕生
コブラになったらブリストルの部分が全く残ってないんですね。あと、コブラの後についてる数字はエンジンの排気量(立法インチ)
英国発 誉行き
格闘戦が出鱈目に強かった九七式戦闘機のエンジンにもなった傑作「寿」ができるまではこんな具合の展開。
- イギリスのコスモス・エンジニアリング社、ジュピター空冷星形9気筒エンジンを開発
- ブリストル社が経営危機に陥っていたコスモス社ごとジュピター製造ノウハウを買収
- 中島飛行機がブリストルからジュピターの生産ライセンスを買う
- 中島飛行機がアメリカからワスプエンジンのライセンスも買う
- 上手い具合に二つを混ぜて日本国産航空エンジンの礎「寿」(ジュピターのジュから)が誕生
- 中島、「寿」で身につけた技術に加えてツインワスプエンジンを勝手に参考にして傑作「栄」が誕生
- 中島、栄の密度を上げて極限機「誉」が誕生
今もなのかは分かりませんが、昔の技術って移動と移動先での成長が多い。
ライセンス生産から発展したのか、無断コピーから発展したのか、いまいちはっきりしない部分も多々あります。わずか1機種の、これだけのステップで。
頭文字
アヴロ社の創始者はアリオット・ヴァードン・ロウ氏。略してA・V・ロウでアヴロ。
奇妙な乗り物系やUFO系のTV番組によく登場する飛行円盤「アヴロカー」の「アヴロ」は社名からとっただけ。
スパイカーってル・マンにしか出てないよね…と思ったら
スパイカーはオランダのメーカーで、1880年に鍛冶屋のスパイカーが作った非常に由緒正しいブランドだと判明しました。
ネーミングも「スパイク」からきたもの。リベットだらけの奇怪なデザインも、それがコーポレートアイデンティティ。
ミサイルメーカーがELLEも売ればファミリーカーも作る
ミサイルで有名なフランスのマトラは1970年代にレースで活躍。
1980年代に「ELLE」などを出してる出版社アシェットを買収。
さらにルノー・エスパスは1984〜2002年までマトラが製造。
幅が広すぎて何が何やら…
ミサイルメーカーが作った飛行機
マトラも試験機とはいえ一応有人機を計画していたのですが、これはひどい代物。
ミサイルに折り畳み式の直線翼をくっつけて、速度が出てきたらそれを胴体内に引き込んで、その後90度ロールすると今まで垂直尾翼&ベントラルフィンだった翼が主翼になって超音速で飛ぶなどというデザイン…
無茶すぎる。人間乗せたらいけない。
総評
岡部いさくのメカ読み物シリーズには参考文献表がついていなくて、それは商売上手だ、なんて思ってしまいます。
モデルグラフィックス・スケールアヴィエーション誌に連載されていた分と元ネタが同じと思われる記述がこの本で若干みられても、その出典が突きとめられないままだったりして。
何となく物足りないところがあるメカ読み物シリーズの中でも、今作は特にその感が強い一冊です。