サァっと流れ続ける微かなノイズに乗った、インダストリアル路線のひとつの頂点。
これ無しでは「Half-Life」シリーズは生まれなかった?
音響と映像が非常に素晴らしい。初めて「Half-Life」に触ったときのように、もしかしたらありえるかもしれない異世界に投げ込まれた気分。
両作共に映像だけではなく、音の表現に力を入れて重みも大きくなっているのが大きな特長です。放送音声に乗る電気的ノイズや機械動作ノイズ、空間によって起こる反響の表現などなど。
優れた音響は空気になってしまうので、そのことを認識したり、言葉といった固定化作業に載せたりするのはやや難しいのですが…
音で描かれた世界、それを体験するためだけに見るほどの価値が今作にはある。
ストーリーは「機械とコンピュータが管理する社会で、精神制御剤を飲まなくなった女と肉体関係を持った男、禁を破ったため逮捕される、その後社会から逃亡する」的なものらしいのですが、実際見てみるとそういう流れはあまり印象に残りません。何だかよく分からないうちに働いて、捕まって、逃げて…といううちに終わってしまいます。でも、雰囲気がつかめていたら、それで充分という感覚。
管理社会で市民の手が届くエリアに制御を振り切る巨大な力(スーパースポーツ)があるのは、逃亡の困難さが薄れる上に、それほどのパワーが必要な世界というのは矛盾している気がしました。そのため、ストーリーはいまいち…ですが、見せる技術が圧倒的。
- 「THX-1138」と「Half-Life」両方の音響担当者は製作実績で何年も仕事が来続けてもおかしくない、と思ったので少し調べてみたところ、「THX-1138」のほうのウォルター・マーチは音響と編集でアカデミー賞を多数回受賞しているようです。さすがの腕前。
- 「流れに乗っている間は静かだけれど、それに逆らおうとすると猛烈な抵抗になる」ということを人波と雑踏で直接物理的に描写していて面白い。ここも音の表現が上手い。
- オーケストラの音楽を4分の1倍速で逆再生して音楽製作、声にエコーをかけエコー後の音と元音の比率を逐一調整する、などしてノイズを作ったとか。
- 普通の部屋で普通に録音→普通の部屋で4倍速再生して4倍速再録音→再生の手順を踏むと、4倍の広さの部屋で録音したような音声になるらしいです。一体どういう原理なのか…
- 今作の解説を聞いていて分かったのは、説得力のある異世界の音を得るには、本物の環境音を材料にするのが効果的ということ。再生速度変動・録音速度変動・重ね合わせる音の比率と材料といったものをよく選び抜いて丁寧に調整していく。
- 技術力勝負なところがある作品なので、元になった学生映画「電子的迷宮/THX 1138 4EB」がどの程度の仕上がりだったのか見てみたいですね。
追記:フォトギャラリー
左向き再生ボタン押しで一通りの雰囲気をつかめるスライドショーが連続して見られます。
http://flickr.com/photos/marcwathieu/show/with/2294913166/