放課後は 第二螺旋階段で

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「人類は核戦争で一度滅んだ」 橋川卓也

あらゆる角度から燃える矢の雨が、激しい風とともに降りそそぐ。雷よりも激烈に爆発したこの武器に、敵の戦士たちは猛火に焼かれた木々のように倒れた。この武器に焼かれた巨大な象たちは、あたり一面に倒れ、ものすごい叫びをあげた。やけどをした他の象たちは、恐怖に狂ったように水を求めてあたりを駆けまわった。

 ―マハーバーラタ

血の混じった雹と火が地上に投げられた。地の3分の1は焼け、木の3分の1は焼け、緑の草はすべて焼けた。

 ―ヨハネの黙示録

第二の天使がその杯を海に注ぐと、海は死者の血のようになり、海の生き物はみんな死んでしまった。

 ―ヨハネの黙示録

 「世界各地に残る、強烈な光と熱に焼かれる人々を描いた伝承、瞬間的な高熱でガラス化した都市の砂、異常なほど強固に作られたインダス文明の都市モヘンジョダロカッパドキアはすべて古代の核戦争で説明がつくんだ!」
 「な なんだってー!!」


 私は『天空の城ラピュタ』やら『ふしぎの海のナディア』やら『ガイア幻想紀*1 やらで育っものだから、超古代文明というものにどうしても惹かれてしまいます。けれども、超古代文明モノの多くは超能力など霊系純粋オカルトテクノロジーに支えられていることが多く、もしかしたら実在したかもしれないという雰囲気に欠けるものが多いため、この本のようなある程度現実的なテクノロジーだけで支えることを前提にしたものは貴重なので読んでみました。


 単に「超古代文明は核の炎で滅んだ。その痕跡は伝承と遺跡に残っている」の一本槍で通すならどうにか「何かの間違いで核兵器を手にしていたかもしれない人類」を空想できるのですが、今作では「核兵器弾道ミサイルで標的に投入された」などといった要素が追加されていて、そのせいで「核兵器」だけでなく「弾道弾」というテクノロジーが必要になって、検証必要要素を増やしてしまっています。それは厳しい行き方。
 情報を積み重ねれば積み重ねるほど話の出鱈目さが増していく。
 技術系志願なので(あくまでも志願でしかないのが悲しいところ)「テクノロジーを支えるテクノロジーを軽く見てくれるなよ」と何度も思いました。


 積み重ねが厳しくなったからか、最後のほうでは「聖母マリアが1917年に核戦争を警告した」とか「テクノロジーは宇宙人からもたらされた」なんて展開になってしまいました。毎度お馴染みといった感じのオカルトテクノロジーオチ…残念。


 冒頭のことばによると「旧版を反核運動の参考文献として読んでいる」という人もいるそうですが、これを参考にするのはちょっとまずいのでは…

テクノロジーを支えるテクノロジー

 核弾頭弾道ミサイルを製作するのに必要な技術例は以下の通り。

  • 核弾頭
    • 核物質濃縮技術
    • 爆縮レンズ用高性能爆薬製作化学技術
    • 精密信管製作配置計算数学技術
    • 精密信管制御電子技術
  • 弾道ミサイル
    • 高性能燃料製作化学技術
    • 燃焼解析技術
    • 飛翔体弾体材料技術
    • 飛翔体制御技術


 タイピングの手が止まらない位すぐに思いつくものでもこれくらいにはなります。
 工業製品というものは、ただ設計図があればできるというものではないのです。
 突破しなければならない関門は少なければ少ないほど実現しやすくなる。

伝説の美味しいところだけ楽しむ

 作者の人が核戦争に関連がありそうな派手なところを優先して読んでいるので、引用部分は超古代文明モノの元ネタ探しといった感じでお得。

 『ラーマーヤナ』の主人公ラーマ王が戦で勝って得る妻が、シータ。
 「見せてあげよう。ラピュタの雷を」「旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火だよ。ラーマヤーナではインドラの矢とも伝えているがね」

ラクシャ : そのコースに追いつけない武器
ヴァルシャナ : 敵を苦しめるために大雨を滝のように噴出する武器
ショーシャナ : 水を干上がらせるのに用いられる
ソウマンヴァ : 心を支配する武器
シャブタヴェディトヴァ : 音に従い見えないものを倒す矢
カマルチ : 輝く矢で行きたい所に行ける
ムルチナダーナ : あらゆる感覚を停止させる武器
パイシャ・アストラ : 赤い食肉、悪魔の矢
トヴァシュトラ・アストラ : 造物神の力を持つ混沌をつくりだす武器
ジャムバーカ : 悪霊が備わった武器
カンダルパ : 性欲を興奮させる武器
サムヴァルタ : 時に属する覆いかぶせる武器で世界を滅ぼすのに用いる

 ネーミングと働きのリストを見ていると、暗黒エネルギーが適度に強まってきます。カッコイー!
 イスラエル軍が戦車に「メルカバ」と名付けたように、インド軍はミサイルに「アラクシャ」とか名付けないのでしょうか。
 『ラーマヤナ』ほど古い文章の段階で「サムヴァルタで時を操ったら強いのでは?」と発想できたのは、ゼロを発明した数学大国インドならではかも。

  • ロシアのシャンバラ伝説

 1世紀の間に7人だけがシャンバラの国へ入国を許され、そのうち6人はそこで得た秘密の知識を携え再び外の世界に戻り、人類が道を誤らぬよう指導する役目を果たす。
 残りの1人はシャンバラにとどまって不老不死の者となる。
 その伝説を現代に伝える者は、過去にシャンバラの国への調査に派遣され、そのまま長年行方不明になっていた神父。


 選ばれし指導者+究極の知識と引き替えに表世界から姿を消す者。ヒロイック。
 仏教国でもないロシアで、さらに言えばキリスト教の神父が何で仏教系のシャンバラに行くん…という気もしたけれど、そういう細かいことは気にしてはいけない。

「ムーブックス刊行にあたって」は読んでいて何となく可笑しい

 文庫本巻末などによくある発刊の言葉。『ムー』のものは…

 シンボルマークは南太平洋に浮かぶイースター島の石像 "モアイ" 。幻の大陸・ムーとも関連づけられている、孤高の遺物です。末永くかわいがってくださるようお願い申し上げます。

 懇願調。珍しい。

次に読みたくなる本

 「核戦争で滅亡した後も信仰に基づき文明を保守し続ける者」を描く『黙示録3174年』が読みたくなってきましたよ。こちらは普通のSF小説。ずっと積んでいました。

*1:シナリオが大原まり子というのが珍しい。ゲーム業界と無関係な作家がシナリオを書いたゲームってノベル系以外ではどれくらいあるのだろう?