放課後は 第二螺旋階段で

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「昭和16年夏の敗戦」 猪瀬直樹

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

 適切な答えを出すのに必要なもの、それは適切な設問。
 昭和16年日本のベストアンドブライテストで編成された「総力戦研究所」ではその問いを得て、見事に解き明かした。
 「対米戦争は実行すれば必敗」

 しかし、この新たな状況想定という問いに直面した既存の政治家たちは、再考しての答えを出せないどころか、出すことに挑みさえもしなかった。
 総力戦研究所は考察結果の扱いや存在意義についてはっきりしたところのない、巨大組織内の浮島にすぎなかったのだ。
 そして、五・一五事件二・二六事件が発生するほどの国内政治緊張により対米戦争回避の可能性がほぼ失われた状況下へと時代は進む。その圧力により「戦闘結果がどれほど良くとも資源は中途で枯渇」というデータは「戦争継続可能」となるように改ざんが行われ、最後に残ったたった一つの障害は取り除かれた。

 ラクダの背を折る藁の一本となったデータ改ざん作業を行った人物は、それが一体どういう結果をもたらすかについて特に考えがなく、ミルグラム実験的な意思決定でもあった。

細部メモ

  • 情報を得ること、情報を分析すること、結果を活かすこと、それぞれに全く別々の力が必要である。
  • 総力戦研究所はイギリスの国防大学をモデルに設立された。この組織はいまも国際戦略研究所として存在する。(分析結果にどの程度の重みがあるのかは不明)
  • 「面接試験」を日本で発明したのは総力戦研究所
  • 総力戦研究所は「対米戦争は必敗」という結果をたちまちのうちに導きだしてしまったため、その結果を無視することになった東条英機の描写に力が入っていて、本としては冗長。


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