翔べ海上自衛隊航空学生―パイロット人生38年の航跡 (光人社NF文庫)
- 作者:岡崎 拓生
- 発売日: 2011/10/31
- メディア: 文庫
最近、Twitterで航空自衛隊航空学生クラスタの存在に気づいて、ぱきっとした性格に好感を持ち、一体どういう人々なのか知るためにこの本を手にしました。
単座戦闘機中心の航空自衛隊航空学生とは雰囲気がかなり異なり、第二次世界大戦の生き残りパイロットから教育を受けていた程の昔の第3期航空学生の話なので、自分の読みたいものとは少しずれていましたが、これはこれで興味深い内容です。航空学生に興味のある方・志願者は読んで損はないでしょう。
海上自衛隊航空学生は哨戒機中心でパイロットというよりも機長としての能力が重視されるのか、操縦技量以上に部隊のマネジメント能力が問われる場面が非常に多いところが特徴となっています。
また、捜索・航法能力を生かしての海難救助・災害派遣任務などは平時から多くマスメディアに大きく取り上げられる現状において、航空自衛隊の戦闘機乗りが不人気職種となってしまった雰囲気もこれでわかりました。いくら空対空や空対艦の戦闘が上手くなっても、それを活かす機会が訪れることはない。無いのが良いのだけれどフラストレーションはありそうです。
このように多数の実例エピソードが掲載されている今作は、航空学生受験者が買っておいて損はない一冊となっているでしょう。
対潜哨戒機の乗員についてのメモ
今のP-3Cでは、基礎的な操縦技術のみを持つTACCO(TACtical COordinator)という戦術航空士が機長。航空学生出身者の一部が途中でTACCOコースへ。パイロットはメインとサブの2人。戦術コンピュータがソノブイの投下位置や指定地点への旋回バンク角などを指示してくれるので半自動的に敵潜水艦を捕捉可能。
TACCOコースがあるため、航空学生のエリミネート率が低め。
P2V-7などの時代では、NAO(Naval Aviation Officer)という戦術と航法の専門家が存在していたが少数で、ほとんど主パイロットが機長。若手の三人目のパイロットが搭乗していて、戦術要素の薄い航法ナビゲータを担当している。
その他雑多なメモ、フライトシミュレータ向けトレーニング法メモ等が多数ありますが長すぎるので畳みます。
その他雑多なメモ
- 学生時代の苦労のない著者。書いていないだけかもしれないけれど。
- 著者の乗機は
- 航空学生で50m60秒を切れないものは水泳未熟者の赤帽。
- 飛行時間35時間でソロになる。タッチアンドゴーで着陸訓練、ループ、スピン、レジーエイト、スローロールで空中操作訓練。
- 海上自衛隊は今でも空母時代を踏襲したレーストラックパターンで着陸。ベースレグ無しで、ダウンウィンドレグから旋回しながら高度を下げて着陸。
- レジーエイトは文章ではどういう飛行なのかちょっとよく分からない。
レジーエイトは、旋回しながら機首を持ち上げ、次いで機首を下げ旋回を切り返して同様に操作することで、結果として、機首を使って水平線上に横に寝た8の字を描く。機首角度とバンク角を連続的に変化させねばならず、最初のうちはまるで形にならない。
- 機内視点から見たバレルロールもちょっとよく分からない。
まず右か左真横に雲や山などを目標に定め、機首を持ち上げつつ横転に入る。機首方位が90度変わった時点、つまり先に確認しておいた目標に向いた時、機体はきっかり背面、機首角度は水平である。さらに横転を続けつつ機首を下げて速力をつけ、やおら水平にまで引き上げて、操作開始時の進路・速力で横転を終わる。
- 航法で自機の位置を知る方法として、目視、レーダーに映る島や岬の形、航法無線機(LORAN、TACAN)、地上局からの電波の方位線の交点を求める(ADF、VORなど)、搭載航法装置(ドップラーレーダー、INS)、天測に加えて、「ひとに教えてもらう」(航空自衛隊などのレーダーサイトなどに質問する)が含まれているのは笑いました。そんな最終手段があったとは!
- 現代機フライトシミュレータでVORが2基搭載されているのが普通な理由がこれでやっとわかりました。地図上で二局の交点を求める。
- 捜索レーダーとドップラーレーダーの違いはちょっとよく分からない。
- 天測航法訓練で教官「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」
- 天測暦という本に書いてあるデータと時計を突き合わせて、結果を六分儀の目盛りに入力すれば指定の星が視野の中心付近に発見できるというのは一体どういうシステムなのかちょっと不思議。これを3回繰り返して方位角の交点から自機の緯度経度を割り出すらしいけれど、そんなに正確なら六分儀の作業は確認程度の役割でしかないのでは…
- このサイトにやや詳しい解説が。天測への続き 推測航法を補強するものでゼロベースで位置を得るほどのものではない?
- 天測暦という本に書いてあるデータと時計を突き合わせて、結果を六分儀の目盛りに入力すれば指定の星が視野の中心付近に発見できるというのは一体どういうシステムなのかちょっと不思議。これを3回繰り返して方位角の交点から自機の緯度経度を割り出すらしいけれど、そんなに正確なら六分儀の作業は確認程度の役割でしかないのでは…
現在までの災害派遣での殉職者のうち、およそ1/4がこの事故による。
そんな大事故があったんですね。
- S2Fトラッカーはソノブイなしでの潜水艦捜索術が発達しているのが独特。編隊をきつく組んだままMADを繰り出して飛び回ることでローラー作戦を仕掛けたり、複数機でラフベリーサークルのような陣形を組みそれを移動させることでエリア制圧などを行える。飛行そのものに高い練度の必要な珍しい対潜哨戒機。
- P-2Jのころは80機程度の対潜哨戒機を装備していた日本が、格段に有力なP-3C時代になると150機もの対潜哨戒機を保有しているのはソビエト原潜が脅威だったとはいえちょっと異常な数字。P-1完成後は70機程度へ。
- バードストライクの原因になる飛行場の鳥たちは、天敵がほとんど侵入しない広々とした草地にいる虫やミミズを食べるために集まっているらしい。