
- 作者:小泉 信三
- 発売日: 1975/01/25
- メディア: 文庫
慶應大学塾長・小泉信三の長男である信吉が昭和17年10月22日に戦死するまでの回想記。
小泉信吉は物質、精神、そして友人にと全てに非常に恵まれ天真爛漫、慶應ボーイの中の慶應ボーイであった。その後ごく短期間の三菱銀行勤務を経て短期現役士官として教育を受け主計科少尉任官したため、本書の雰囲気は他の下士官兵たちの戦記と全く異なっている。海軍兵学校出身者と比べてさえも突出した社会的エリートであり、きわめて軽快楽天的な気質を保ったまま一生を終えるのである。
戦地においてさえ「君の父が書いた経済学の教科書で学んだ」と挨拶され、将官佐官クラスは父の知人であり、尉官クラスにも学生時代からの知人多数という優雅な海軍々人生活であった。
その後に訪れることになる厳粛崇高たる海軍葬とその後の通常の葬儀の描写はきわめて精緻で、比類なき記録でもある。
また、小泉信吉は中学時代にジェーン年鑑を購入しているほどの海軍ファン・マニアでもあり、それが高じて志願そして25歳にして戦死したため、年齢的にそう遠くない現代の海軍ファンである私がもし死んだ時どう回想されるかに思いが至ってしまい、幾ばくか憂鬱にならざるおえなかった。彼ほど善き人には決してなれないだろう、と‥‥