放課後は 第二螺旋階段で

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空のホットハッチ「世界の傑作機 No.150 A-4 スカイホーク」

 日本でも人気の高いベトナム戦争期の米海軍機が増々ページで登場。A-4スカイホークについて何か知りたければまずこれを読めば最速で最濃となれる一冊に仕上がっている。ネット時代に対抗してか非常に高い情報密度である。開発史からベトナムフォークランド・中東・湾岸での戦い、戦闘を経験しなかった輸出国までの全てを収録。

 私はフォークランド紛争でのアルゼンチン空軍の勇敢な戦いぶりでこの機を好きになったので読み、その視点からも満足できる内容だった。中東戦争のファンはもちろん、湾岸戦争時のクウェートの様子さえもある程度知ることができる程の詳しさである。

運用史の感想

 極初期のA型はほぼ昼間核攻撃専用のきわめてあっさりしたデザインだが、派生型が開発されると、空中給油用の「槍」状のパイプ追加、外翼ハードポイント増加、夜間攻撃用のレーダー搭載、エンジン換装によりエアインテイクのデザイン変更、ハンプバックことアビオニクスパックを背負い、キャノピーも視界改善のため大型化、レーザを使った角速度爆撃照準システムが組み込まれガラスとなったノーズ、垂直尾翼端とノーズ左右に張り出すレーダ追尾警戒システムと、オプション大量装備により凸凹したデザインへと次第に進化。

 この辺りには目視での戦いから電子戦時代への過渡的存在だった所が出ていて面白い。

 こうして原型からかけ離れた能力を得るまでの進化を遂げた A-4スカイホーク の後継はあからさまなコスト削減機 A-7コルセアII。どちらが有力なのか、見た目ではよく分からない。

 実は A-4 はベトナム戦争中に既にほぼ引退状態となっていた。最終盤のラインバッカー作戦頃(1972年)には搭載空母は CVA-19 ハンコック の1隻のみ。

 フォークランド紛争時の A-4 の戦果がそれほど多くはなかったのは、偵察の精度が低く艦隊防空エリア内にまで到達してもイギリス艦を発見できなかったこと、爆弾の不発が極度に多かったためであるという。ECM 性能が F型水準に達していれば格段に有力となっていそうである。

 湾岸戦争時のクウェートの A-4 は、いまいち情報の正確性に乏しく、20年以上経った今でも未だによく分からない部分が大。(この本がどうというより、精密性のある資料が根本的に入手不能と思われる)

構造系の感想

 折りたたみ機構の無いシンプルな機体として知られている。それを生かして主翼外板が左右一繋がりの巨大な一枚板で構成されているのは、行き着くところまで行った感あり。

 あまりにも小型化されたため、ハードポイントは初期なら僅か3箇所。E型より外翼部に左右1つずつ(それぞれ僅か 500lb の積載量)が追加されようやく計5箇所。A-1スカイレーダーならば15箇所。ハードポイント一つに爆弾6発を密集して搭載しピストンで打ち出せるマルチ・エジェクター・ラックがなければこの小さな機体は製造開始からたちまち寿命を迎えていたであろう。

 軽量化のためには飛行関係装備さえも単純化されており、陸上基地での運用でさえ二の次と割切った構造である。

 ホイールにはステアリング機構が長い間無く、レシプロ時代の尾輪式航空機のように左右ブレーキの踏み分けのみでターン。(空母側が常に風上側に向かって操舵してくれるのでこれで十分) 着陸時に脚を強く接地させるためのスポイラーも無し。(アレスティングワイヤで強制的に止めるため不要)

 外板がなく骨が剥き出しのデザイン的アクセントとして魅力的な方向舵は「タッドポール型」(おたまじゃくしの尾)とよばれている。通常形状部分と外板剥がれ部の断面積差で衝撃波の発生位置を固定することにより、亜音速飛行中の横風で起こる不均等衝撃波による舵の「とられ」を防止するという。これにより油圧を使わない人力操舵(!)が可能となっている。F-100 スーパーセイバー も同様に方向舵の後半部のみ厚みが無い。

 地上攻撃機らしくパイロット用の防弾構造も組み込まれているが、これは基本形態での重量わずか13kg、着脱式の装甲が57kgとなっていて、一体どれほど効果があるものか気になるところである。(ベトナム戦争頃のボディアーマー性能と大戦機の装甲から推測すると、フル装備状態で小銃弾の直撃死率を軽減できる程度?高射砲類の破片が標準?)

 胴体内燃料タンクは防弾・崩漏タイプ。給油時は必ず主翼インテグラルタンクから先に入る構造になっていたため、被弾した状態で空中給油を受けると受けた先から漏れていた。(この点は胴体のみ給油モードを追加する改造により解決)

 空中給油プローブに直線槍タイプと折れ曲がりタイプの2種類があるのは、ワイルド・ウィーゼル任務向けにレーダーに替えて搭載された AN/APS-117 TIAS(標的識別掌握装置) の電波干渉を避けるための折り曲げから始まったもの。コクピット側方で常に目に入り邪魔になりそうな配置にもかかわらずフランス戦闘機で多用されるのも納得である。

 ほか、ハンプバックになる前の A-4 は左右主翼付け根の機関砲弾倉を潰すことで電子装備の追加に対応していたという。一体どこにあのデザインになるまで「我慢」できるだけの隙間があるのか長らく気になっていた。


サブタイプ型式識別メモ

A-4 (航空機) - Wikipedia の強化版・理解ガイド程度の内容だが掲載。

 ドイツの大戦機並に多種多様で複雑なものとなった型式は、輸出国の多さと各国ごとに異なる仕様と、ベトナム戦争による再生産と既存機大改修によるもの。

 一軸エンジン搭載・機体密着型エアインテイク系(ライト J65、アームストロング・シドレー サファイアアメリカによるライセンス生産型)と、二軸エンジン搭載・境界層分離型エアインテイク系(プラット・アンド・ホイットニー J52)にまず二分し、その後に細かなサブタイプをチェックする順番をとれば識別は容易になる。

 E型以降が二軸エンジンである。

 複座の練習型(TA-4系)と高速前線航空統制型(Fast FAC)(OA-4系)は製造開始時期が遅いため、一軸エンジン系のみを運用するシンガポールで改造された TA-4S 以外はすべて二軸エンジン系という要素もヒントとなる。


 ただしL型は予備役のC型のエンジン以外をE・F型レベルにまで引き上げたもの。また、アビオニクス増設によりハンプバックとなっている。

 F型はすべてハンプバックである。(E型は一部)

 M型は海兵隊向けでレーダーは非搭載だがそれ以外の電子装備の強化、キャノピー大型化、APU・ドラッグシュート搭載などが行われている見かけ以上にユニークな野戦昼間攻撃特化型。


A-4スカイホーク輸入国別簡易仕様表(国名の後に付くのは原型・改造後型式名)

  • 一軸エンジン搭載・機体密着型エアインテイク系導入国
    • アルゼンチン(B→P、Q、M→AR)(世界初のA-4輸入国)(フォークランド紛争後の1993年にM型系を導入し二軸エンジンへ移行)
    • シンガポール(B→S、SU)(SUはF404にリエンジン)
    • マレーシア(C、L→PTM)(アメリカの中古機)


 イスラエルの赤外線誘導ミサイル被弾を前提とし延長されたノズル、シンガポールの F404 ターボファンエンジン型、オーストラリアの空母メルボルンに搭載し AIM-9 サイドワインダーを使っての防空型、ニュージーランドの APG-66 強化型搭載型はカスタマイズが進んでいてユニーク。


設計者エド・ハイネマンに関する感想

 この偉大な航空機デザイナーは意外にも高等教育を受けていない。天才製図工出身の極めて高い画力と速筆で綺麗な青写真を描いて全体のデザイン方針を素早く正確に決定することで契約を獲得し、後からチームマネジメントで各部の設計と性能を向上させるタイプ。そんな手法が有効だったとは、まるで抜け穴のようである。

 今も現役で高速飛行に適合したデザインの Mk.80番台 低抵抗通常爆弾はこの方がデザインしたもの。(それ以前は大戦型で高速飛行時にフィンが破損することがあった)


A-4スカイホークに限定されない細か目の疑問

  • C型で夜間戦闘に対応すると空中給油装置の受油部用照明が組み込まれたとのこと。なるほど。細かい。
  • シンガポール空軍の A-4SU はフランス・カズー基地派遣の訓練部隊、第150飛行隊にも配備されているとのこと。フランスとそれほど深い関係があるのは何だろう。
    • 西ドイツ空軍のパイロットが気象条件の良いアメリカで訓練を受けていたのと同様?
  • A-4M後期型に搭載されていた ARBS(角速度爆撃システム) の原理がよく分からない。レーザーのシーカー・トラッカーが入った透明レンズが機首に組み込まれている。
  • p.100 のA-4スカイホーク着艦事故連続写真で、パイロット射出時に飛んだ破片が腕に直撃した兵曹ジョー・ハモンドは後に通常の任務に復帰した。オスプレイの US Navy and Marine Corps A-4 Skyhawk Units of the Vietnam War 1963-1973 に同じ写真が収録されている。(やや記憶モード)

誤字に関する疑問

 29ページの最右段下方の陸海空軍呼称統一に関する記述は上段ではなく下段が正しいのでは……(A-4Cの旧名称が異なる)

さて、スカイホークはというと、A4D-1がA-4A、A4D-2がA-4B、A4D-3がA-4C、A4D-5がA-4Eとなった。

さて、スカイホークはというと、A4D-1がA-4A、A4D-2がA-4B、A4D-2NがA-4C、A4D-5がA-4Eとなった。

関連本ノート

 この本が非常によくまとまっているため、これ以上を望むとなると和書は考えられない。

  • オスプレイ・コンバットエアクラフト『US Navy and Marine Corps A-4 Skyhawk Units of the Vietnam War 1963-1973』

US Navy and Marine Corps A-4 Skyhawk Units of the Vietnam War 1963-1973 (Combat Aircraft)
 おそらく執筆時の資料本のひとつ。

  • Scooter!: The Douglas A-4 Skyhawk Story

Scooter!: The Douglas A-4 Skyhawk Story
 執筆時の資料本と思われるものその2。

  • Combat Aircraft Designer: The Ed Heinemann Story

Combat Aircraft Designer: The Ed Heinemann Story
 執筆時の資料本。唯一のエド・ハイネマン伝記。

LTAVー7コルセアII海軍型 NO.18 (世界の傑作機)
 A-4 スカイホーク の後継機 A-7 コルセアII で一冊。比較用。
・この本についてエントリを書きました。 航空界のコンパクトカー 「世界の傑作機 No.18 A-7 コルセアII 海軍型」 - 放課後は 第二螺旋階段で

*1:AN/ASB-19(V) Angle Rate Bombing Set (ARBS) (Raytheon Electronic Systems) - Jane's Avionics http://articles.janes.com/articles/Janes-Avionics/AN-ASB-19-V-Angle-Rate-Bombing-Set-ARBS-Raytheon-Electronic-Systems.html