デザイン的完成度がきわめて高い A-4 スカイホーク の後継が見るからに安く上げた感のあった A-7 コルセアII と今更ながら知り、一体どれほどの機体なのか気になったのでこの本を読みました。
1989年初版で当時 A-7 は現役、アメリカ軍において最後の実戦となった湾岸戦争以前でもあり、退役済み機種のみを扱う歴史要素の強い現在の世界の傑作機シリーズとは編集ポリシーが異なります。文体やデータも雑誌寄りで時事的要素が若干含まれるものとなっています。
掲載されているカラー写真は全てハイビジ塗装時代。グリーン系のベトナム迷彩や、今の F-15E や ハリアーII のようなガンシップグレイ系ロービジに切り替わったのは具体的には何年なのか気になります。1983年のモノクロ写真はガンシップグレイに見えますが……
- A-7 コルセアII vs A-4 スカイホーク
- 箇条書きのメモと感想
- マイナーなサブタイプの話
- ほか細か目の感想
- 2019年01月にリニューアル版が出ました。
- 過去の『世界の傑作機』関連エントリ(発行ナンバー降順・エントリ作成時期無視)
A-7 コルセアII vs A-4 スカイホーク
A-4 比でペイロードが約2倍、ハードポイントが5箇所から8箇所へ増加した上にそれぞれの最大積載量増加、エンジンがターボファン化されて燃費が大幅改善。結果として増槽を最大限搭載すれば無給油でアメリカ大陸や大西洋の横断が可能という機体に。
安い・積める・燃費良い。
これが1964年4月に採用されて1965年9月に1号機ロールアウト、1966年に空母初着艦、1967年には実戦部隊に配備というスピード開発なのだから素晴らしいですね。
まさに、そつがない。
箇条書きのメモと感想
- 超音速の F-8 クルセイダー 比で、アスペクト比が3から4、後退角が42度から35度へ。翼厚は7%でこれは厚めの数字だという。結構デザインが異なっている。
- スピードブレーキが超巨大。Tの字・甲の字型の先細パネルが機体下面から飛び出すデザインで、この長さが機体全長の3分の1程にもなる。足下げと連動して自動的に格納される機能があるため地面には接触しないという。
- 初期型のエンジンは F-111 や F-14 と同じ P&W TF-30 のアフターバーナ無し版。空軍型の D型 とそれの海軍型 E型 からは ロールス・ロイス RB.168 スペイ をアリソンがライセンス生産した TF41。
- なぜか非常に進んでいるイギリスのエンジン技術です。
- もしかしてプラット・アンド・ホイットニー社の技術力が実は微妙だったのか……
- なぜか非常に進んでいるイギリスのエンジン技術です。
- 構造強度的にはマルチエジェクターラックを6基取り付けて 250lb爆弾 を最大36発まで搭載可能。*1A-4スカイホークではマルチエジェクターラック2基と外翼パイロンの2発で14発程度まで。安価にも関わらず素晴らしき火力です。
- 湾岸戦争前のせいか、フル爆装状態の写真は無し。残念だ。
- A・B型の計器盤には AN/ASN-67 ローラーマップディスプレイが組み込まれていて、ロール状の地図をスライドさせて地形を表示していた。
- D・E型で採用された AN/ASN-99A では35mmフィルムをスクリーンに映写する構造で、縮尺の異なる複数の地図を参照することが可能に。いずれにしても非常にアナログです。
- ローラータイプのマップディスプレイはバイクのラリーレイドでGPS禁止ステージ用として現在も市販品が存在するそうです。
- D・E型で採用された AN/ASN-99A では35mmフィルムをスクリーンに映写する構造で、縮尺の異なる複数の地図を参照することが可能に。いずれにしても非常にアナログです。
- A-4 が非常に多数の地対空ミサイルによる迎撃を受けた経験のためか、初期から ECM 関係装備がとてつもなく多数で個人が把握するのはほとんど不可能な領域です。
- SA-2 ガイドライン 対応(パルス・ドップラー・レーダ対応)、SA-6 ゲインフル 対応(連続波レーダ対応、詳細不明)、SA-7 グレイル 対応(肩撃ち赤外線誘導ミサイル)と特定脅威に合わせた個別の機器が搭載されているのが特徴。
- アメリカ軍で初めて HUD を搭載したのは空軍の A-7D 。それの海軍型である A-7E が海軍初。
- 爆撃の命中精度がきわめて高かったらしいけれど理由の詳細不明。
マイナーなサブタイプの話
- この本が出た当時、A-10AサンダーボルトII の後継として F-7F が提案されていました。既存の A-7D を改修するもので、エンジンは P&W F100 もしくは GE F110 のアフターバーナー付きで超音速飛行可能という無茶気味の仕様。競争相手は F-16 の攻撃型 A-16 、A-10 の新たな発展型。
- この計画は F-16C Block40系 と A-10C の2つに吸収された?
- スイス仕様の A-7G は デ・ハビランド・ヴェノム の後継を目指していた。TF-41エンジン採用、翼下の最内側ハードポイント2箇所と空中給油装置とドップラーレーダの廃止。軽量化の結果として高速道路からの離着陸が可能。財政上の理由で F-5E タイガーII を採用。この個体はテスト後に A-7D に戻されました。
- ポルトガルは米海軍の余剰中古 A-7A の電子装備を E型 レベルに引き上げたタイプの A-7P を購入。エンジンは性能が低く不安定な TF-30 のままと、コスト的にかなり割り切った機体です。
ほか細か目の感想
- 量産前のテスト機のうち2機が墜落。いずれもパイロットは脱出して無事。うち1機に乗っていたジョン・オンビグは後に ボート XC-142*2というティルトウイングの怪作VTOL機のテストで事故死。VTOL機は無数のテストパイロットの犠牲の上に生まれた技術です。
- A-4 スカイホーク から続けて読むと、新鋭機を新品で購入できる日本は金持ちだと思い直します。ポルトガル・スイス・ギリシャなどとは装備レベルが全く異質。もっとも冷戦の太平洋側最前線という要素もありますが。
- 年代的理由のためかタイ海軍の A-7E の話題はありませんでした。
過去の『世界の傑作機』関連エントリ(発行ナンバー降順・エントリ作成時期無視)
*1:ラック1基が下面・左右面それぞれに前後2発ずつの6発。片翼に3基ずつ左右計6基の配置。