放課後は 第二螺旋階段で

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核ロケットだけじゃない 「世界の傑作機 No.101 F-101 ヴードゥー」

 1950年代の米空軍テストパイロットの回顧録で非常に高評価だったので、それほどのものなのか気になって読みました。

 メイン火器が AIR-2 ジーニ という核弾頭搭載の空対空無誘導ロケットのためネタ的に面白がられがちなこの機体、P&W J57 の双発でセンチュリーシリーズ全体の中でも特にハイパワーなのが特長です。これは F-8 クルセイダー のちょうど二機分にあたります。推力重量比は増槽2本に核爆弾1発のほぼ満載でも0.6と良好、機内燃料も多く、音速突破も容易で、長距離ランナーとしての性能においては確かに素晴らしいものがあったようです。

 ですが、AOA制限とロール制限が非常に厳しく空対空戦闘力は全く頼りにならなさそうな所が弱点。高AOAで飛行すると主翼からはがれた気流に水平尾翼が吹き下ろされてピッチアップ側に発散してしまいます。360度以上の急ロールの場合はイナーシャカップリングで発散。G 制限も A型 はたった 6.33G まで。C型 以降で 7.5G となります。

 このような特徴を兼ね備えた機体でレシプロエンジン空中給油機 KB-50 につけての空中給油は、低速による高AOA環境中、給油中増加し続ける自重は操縦桿を引くことで支え、かなりのストレスを感じることになりそうです。

 こう不安定性の高いデザインでは開発当初の目標である SAC のペネトレーション・ファイター(爆撃機を護衛しつつ長距離侵攻する)としては全く性能不足でしょう。

 実戦に使えたのは偵察型の RF-101 で、これは台湾空軍による中国偵察、キューバ危機、ベトナム戦争と冷戦の最前線で超低空偵察に活躍。被撃墜機も多数。プエブロ号事件の頃には朝鮮半島が近い日本の板付基地にも多数が展開していました。私の家族が昔よく見ていた「アメリカ軍の戦闘機部隊」は多分これ。

細々箇条書き

  • 本機の代名詞 AIR-2 ジーニ はロータリー式のウェポンベイに格納。裏表がある一枚板状のもので、オモテに AIM-4 ファルコン が搭載可能。
    • このウェポンベイ、直前にある電子機器室の排気が AIM-4 の赤外線シーカを傷つけ混乱させるトラブルがあったという。排気を散乱させることにより解決。
  • 飛行中に計器板全体が脱落するというトラブル有り。
    • 起こるまで分からない、一度気がつけばバカバカしいタイプのトラブルが多いあたり超音速ジェットと誘導弾の初期らしい機体。
  • 核爆発直後のキノコ雲に突入する実験では「フォールアウトが計器板に積もって読めなくなるのが問題」とか‥‥
  • 1950年頃のアメリカ人はロサンゼルス―ニューヨーク間の大陸横断飛行速度記録にたいへん関心を持っていた。1998年に最高齢での宇宙飛行も行った海兵隊パイロットのジョン・グレンは1957年に F8U クルセイダー で平均速度が音速を越える記録を初めて達成した。(平均速度 1,164km/h) つまりマーキュリー計画以前からの国民的英雄。
    • F-101で行われた記録飛行の作戦作戦名が「オペレーション・サン・ラン」(太陽よりも速く)なのが印象的。平均速度 1,161km/h ほどの記録を達成。
  • 登場時期の関係か、SAC (Strategic Air Command)向けに開発開始され TAC (Tactical Air Command) に配備され、ADC (Air Diffence Command)にも配備と空軍内での管轄が複雑。
  • F-101 装備時代の第8戦術戦闘航空団 ウルフパック (8th Tactical Fighter Wing "Wolf Pack") は第二次世界大戦でのエースでベトナムでも複数の撃墜を記録したロビン・オールズが指揮官。
  • 迎撃型の F-101 の機首側面に埋め込み固定されている「識別用のサーチライト」を見て、現在でもカナダの CF-18 や Su-27 系の一部の機体に搭載されているサーチライトの使い方が判明。所属不明機の真横にピタリとつけて照らし出すための装備。飛行機側を動かすので側方固定式で問題なし。
  • モノマガジン系列の本だけあってか偵察型に搭載されていたカメラの機種について詳しいのですがいまいち理解できず‥‥
    • あまり関係ないですが、以前ニュースで見た航空自衛隊の RF-4E が撮影した300×1500mm程もありそうな巨大フィルムのネガを、それに合ったサイズのライトボックスに乗せてルーペで見るシーンが記憶に残っています。
  • 真横からの写真で見るとまるでペンのように前後に長すぎる間延びした機体なので、見た目にもイナーシャカップリング不可避の感あり。斜め前後の下方か上方の、前後方向がちょっと圧縮される角度から見ると美しいのが F-101。
    • このイナーシャカップリング、フライバイワイヤで瞬間瞬間のトリムを微調整してあわせられるようになると全く気にする必要がなくなりそうです。
  • レシプロエンジンで低速の空中給油機に合わさせるため、接続状態のまま共に降下して速度を稼ぐ「トボガン」(Toboggan)(そり)というテクニックは想像するだに難しい。
  • マクダネル社製の双発ジェット機は二つのエンジン配置が近接しているのが特長。これを生かして、片方を飛行中に停止させ航続距離を伸ばす運用が定番となっていた。FH ファントム から始まり、F2H バンシー 以降では、停止中のエンジンが空転することによる滑油切れを防ぐためのシャッターまで内蔵。F-101 にはこの手の機能は組み込まれていない。
    • エンジン停止で燃費を稼ぐのは対潜哨戒機だけではなかった。

2015年1月30日追記

 アメリカ大陸横断速度記録飛行「オペレーション・サン・ラン」の記録映画が Youtube にて公開中。

St Louis 4 McDonnell RF-101 Voodoo Operations Sun Run and Fire Wall F-101A