放課後は 第二螺旋階段で

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「重巡摩耶」池田清 艦の生涯を俯瞰で見る。そしてソロモン海戦というサイレント艦隊決戦での決定的敗北。

 艦これブームに乗って、積読から出てきたこの一冊を何となく読み終えました。

 最後の条約型重巡・摩耶(高雄型4番艦)が建造され沈没するまでの14年間が時代背景と共に描かれています。250ページ程のこれ一冊で太平洋戦争までの時代感覚・戦況感覚が掴めるとても便利な一冊です。

 著者は摩耶乗り組みの少尉で、戦後は法学教授となっています。均質性の高い描き方に法学系らしい印象を受けます。この筆により大戦を概観すると、摩耶そのものの戦歴は地味で、ハイライトになるヘンダーソン飛行場砲撃も艦砲射撃の一波程度でしかありません。そして関連してのソロモン沖海戦の繰り返しで水上戦闘力が削り負けて、1941年12月に始めた戦争も1942年が終わるより前に大勢が決したと認識できます。

 日本海軍は艦隊決戦がいつ、どのように行われるのか読み切れず、仕掛けられず、偶発的な事実上の決戦を繰り返している間に戦力を失い、漸減作戦を仕掛けるはずが逆に漸減されています。

 愛宕・高雄・摩耶がまとめて潜水艦に撃沈されるようでは……不甲斐ない。

 こんな戦いざまの中でも、死んでいった友たちは永久に若く美しい。

要素レベルのメモ

  • 本文中他の人物と何の差もなく客観的に描写される「池田少尉」が著者。1944年4月の防空艦化工事中にあわせて着任し沈没まで勤務。
    • レイテ沖海戦へと繋がる捷一号作戦開始直後、副直勤務中愛宕に魚雷4本が命中する瞬間を双眼鏡で見ている。
  • 摩耶は神戸の川崎造船で建造された。この頃は経営危機にあった。
  • 摩耶の建造開始年である昭和5年(1930年)の流行歌‥‥「愛して頂戴ね」「祇園小唄」
  • 搭載砲弾全てを撃ち尽くすまでの連続射撃による耐久性・練度試験も行われたことがあるらしいが詳細不明。
    • 弾薬と砲身両方の消費の激しさと、発砲衝撃に対する艦各部の脆弱性の未修正具合から記憶違いではないかと気になります。ほか砲戦の度に艦載機が大破するため利根型が欲しくもなります。
  • 摩耶の対水上艦戦闘での確認戦果は少なく、うち一つのインド洋作戦におけるイギリス駆逐艦ストロングホールド撃沈では「日本でいうなら夕張くらいの新鋭駆逐艦である」「水上機用カタパルト搭載」と認識されていますが実際には第一次世界大戦中である1918年就役の旧式艦。
    • アッツ島沖海戦でペンサコラ型の巡洋艦を砲撃し火災発生させるも打撃を与えたようには見えない状況は、ペンサコラ級重巡ソルトレイクシティに着弾し一撃で機関停止させたもののそれに気がつかなかった模様。
  • アリューシャン方面作戦中、隼鷹の艦載機が機位を見失って残燃料僅かで打った「探照灯点灯求む」の信号に対して「点灯した」と打つも実際には被発見防止のため点灯せずに見捨てるシーンがあります。救助にこだわるアメリカ軍ではこのような状況でどうしていたのか気になります。
  • アメリカ海軍の弾着確認用砲弾染料は緑。
  • 航空攻撃による沈没には至らないが多大な死傷者が出る損傷が多数回。防空艦化はこの修理で復旧せずに構成を変更したもの。
    • 高射砲弾薬に引火・誘爆、魚雷発射管周辺の火災(誘爆には至らず)等々。
  • 大戦後期に標準装備されるようになった応急舵は、第三次ソロモン海戦で機関健在の比叡が舵損傷で航行不能となりそのまま自沈に至った事態からの戦訓によるもの。
  • ガダルカナル島の補給が途切れたのは1942年11月中旬の第三次ソロモン海戦という艦隊決戦で敗れて補給船舶多数を守り切れなかったため。それならば前線ガダルカナルへの補給に必要な艦艇は海防艦ではなく戦艦や空母であるはず。
    • 私的補給戦関係の理解が進むにつれ、かえって決戦志向が強まっています。護衛艦艇をいくら持っていても、それに対して潜水艦による通商破壊で付き合う義理はなく、正面戦力に差が付いて戦艦・空母・重巡洋艦の投入を決心されればお仕舞いです。
      • 戦略輸送と戦術輸送では戦術輸送の方が必要性・緊急性が高いという思考で判断がずれている?
  • 之の字運動は米潜水艦が追いつきやすくなるだけの無駄な行動だったのではないかという疑問が‥‥あまりにも簡単に撃沈されすぎてちょっと悲しすぎる‥‥

関連エントリ

  • 同じ高雄型重巡の3番艦 鳥海同乗記。1942年8月初頭の第一次ソロモン海戦近辺中心の内容。

機械の戦いの狭間で―「海戦 〔伏字復元版〕」 丹羽文雄 - 放課後は 第二螺旋階段で