- 作者:池田 清
- 発売日: 2002/01/01
- メディア: 文庫
艦これブームに乗って、積読から出てきたこの一冊を何となく読み終えました。
最後の条約型重巡・摩耶(高雄型4番艦)が建造され沈没するまでの14年間が時代背景と共に描かれています。250ページ程のこれ一冊で太平洋戦争までの時代感覚・戦況感覚が掴めるとても便利な一冊です。
著者は摩耶乗り組みの少尉で、戦後は法学教授となっています。均質性の高い描き方に法学系らしい印象を受けます。この筆により大戦を概観すると、摩耶そのものの戦歴は地味で、ハイライトになるヘンダーソン飛行場砲撃も艦砲射撃の一波程度でしかありません。そして関連してのソロモン沖海戦の繰り返しで水上戦闘力が削り負けて、1941年12月に始めた戦争も1942年が終わるより前に大勢が決したと認識できます。
日本海軍は艦隊決戦がいつ、どのように行われるのか読み切れず、仕掛けられず、偶発的な事実上の決戦を繰り返している間に戦力を失い、漸減作戦を仕掛けるはずが逆に漸減されています。
愛宕・高雄・摩耶がまとめて潜水艦に撃沈されるようでは……不甲斐ない。
こんな戦いざまの中でも、死んでいった友たちは永久に若く美しい。
要素レベルのメモ
- 本文中他の人物と何の差もなく客観的に描写される「池田少尉」が著者。1944年4月の防空艦化工事中にあわせて着任し沈没まで勤務。
- 摩耶は神戸の川崎造船で建造された。この頃は経営危機にあった。
- 搭載砲弾全てを撃ち尽くすまでの連続射撃による耐久性・練度試験も行われたことがあるらしいが詳細不明。
- 弾薬と砲身両方の消費の激しさと、発砲衝撃に対する艦各部の脆弱性の未修正具合から記憶違いではないかと気になります。ほか砲戦の度に艦載機が大破するため利根型が欲しくもなります。
- 摩耶の対水上艦戦闘での確認戦果は少なく、うち一つのインド洋作戦におけるイギリス駆逐艦ストロングホールド撃沈では「日本でいうなら夕張くらいの新鋭駆逐艦である」「水上機用カタパルト搭載」と認識されていますが実際には第一次世界大戦中である1918年就役の旧式艦。
- アリューシャン方面作戦中、隼鷹の艦載機が機位を見失って残燃料僅かで打った「探照灯点灯求む」の信号に対して「点灯した」と打つも実際には被発見防止のため点灯せずに見捨てるシーンがあります。救助にこだわるアメリカ軍ではこのような状況でどうしていたのか気になります。
- アメリカ海軍の弾着確認用砲弾染料は緑。
- 航空攻撃による沈没には至らないが多大な死傷者が出る損傷が多数回。防空艦化はこの修理で復旧せずに構成を変更したもの。
- 高射砲弾薬に引火・誘爆、魚雷発射管周辺の火災(誘爆には至らず)等々。
- ガダルカナル島の補給が途切れたのは1942年11月中旬の第三次ソロモン海戦という艦隊決戦で敗れて補給船舶多数を守り切れなかったため。それならば前線ガダルカナルへの補給に必要な艦艇は海防艦ではなく戦艦や空母であるはず。
- 之の字運動は米潜水艦が追いつきやすくなるだけの無駄な行動だったのではないかという疑問が‥‥あまりにも簡単に撃沈されすぎてちょっと悲しすぎる‥‥