- 作者:エマニュエル・トッド
- 発売日: 2013/01/25
- メディア: 単行本
人口動態の指数は、経済に関わる集計値より変造が難しい。それが由来する概念がより単純なものだからである。一人の個人、その年令、性別、生涯の長さは、相対的に定義するのが簡単である。これに比べれば、靴の寿命、その価格、品質、その存在というのは、なじみのない概念であり、それゆえ輪郭を確定するのがより難しくなる。それゆえ、大きな一貫性と大きな慣性を持つ変数に基づく学問分野たる人口統計学は、実のところ、初めての、そしておそらくは唯一の、真の人間の科学であり、常に最後には共産主義システムを裏切って、その深層を暴露することになる。人口の年齢別ピラミッドは、何十年もの間、スターリニズム、毛沢東主義、その他、およそ人間の社会を、新たに開墾する処女地帯として、白紙のページとして虐殺の戯れとして扱う訓練をしているあらゆる形態の全体主義の「誤り」を、象眼のように刻み込んだまま保持し続けるのである。
富野由悠季をはじめとする市井の面白い勉強人が読んでいる本といえばのエマニュエル・トッドです。その中で最も最近日本刊行されたこれを読了しました。
1975年頃の段階でソビエト崩壊とそのメカニズムを予測した著者25歳でのデビュー作であり、現地に全く足を踏み入れず、一般公開情報に対し歴史学的なアプローチをとる事により、共産主義思想の色を無視し社会経済システムの実態に着目し分析推論を進めています。この手法の結果、コルホーズは9世紀カロリング朝の農奴制に酷似していると指摘し、抑圧第一の社会システムは低い生産性に苦しみ、それがために産業全体への投資効果が虚空に消え国力を失っていくという趣旨の主張が成されています。
この理論を最近の日本に当てはめると、労働生産性の上昇遅れは将来破壊的なものになるのではないかという不安も出てきますね‥‥
論の総体的には、推論に推論を重ね発想の勢いに任せ、それがバーナム効果的に当たっているように見えるため若干纏めづらく、この世界観を完全に理解するにはまだまだ時間が必要そうです。
この本を速く読みたい場合は「序説」と「批評と解説」のエマニュエル・ル=ロワ=ラデュリによる「『捻れた革命』を硫酸で洗い流す」だけで8割位までは分かります。
■一問一答方式での私的まとめ
- ソビエトでは軍事部門が巨大化している。なぜか?
- 国家により完全に管理された産業であり、徴兵により若者から自由を奪う効果を併せ持つため社会の安定化効果が高い。この分野に多額の投資を行うことにより他の無秩序へと繋がる可能性のある産業の発展を阻害できる。
- 高度な兵器を大量に保有している国が経済的に行き詰まるとは思えないが?
- 中央と現場の情報交換能力が飛躍的に向上するオーガス計画 ОГАС(OGAS) もしくはサイバーシン計画が完成していれば共産主義国家は崩壊しなかった?(本書に無い疑問点)
- 現場の判断を上回る生産性を発揮する命令それ自体がほぼ不可能である。
- ソビエトの中でもロシアの経済が特に停滞しているのはなぜか?
- 国家による統制の中心地で社会の不安定化を抑制する事が第一であるため、生産性改善にインセンティブがなく投資が成長に結びついていない。10の生産性に10を投資すれば100の成長を得られるが、1の生産性から100の成長を得るには100の投資が必要である。
- なぜ生産性が低い社会体制なのか?
- その要因の一つとして、秘密警察など抑圧産業への従事者が多数必要であるため。
- 共産主義国家が人々に自動車を与えないのは何故か?
- 有力な軍を持つソビエトだが海外派遣をなぜ嫌うのか?