放課後は 第二螺旋階段で

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スタンダードが生まれるまで―「世界の傑作機 No.76 MiG-21 フィッシュベッド」

 冷戦期の東側の標準戦闘機といえば、MiG-21 である事に異論はないでしょう。この本ではその誕生と進化の過程を知る事ができます。

 中心となる記事は旧ソ連軍用機の世界的研究家 Yefim Gordon が担当しており、他の「世界の傑作機」よりも精度が高く明解な記述となっております。この号はソ連ジェット戦闘機に興味がある方全てに推薦したいほどです。

■MiG-21 の誕生と進化のサブタイプ

 TsAGI のデータに基づき主翼の前縁後退角を60度と定め、それを受けて MiG が試作した機体の中でも後退翼を採用したのが Ye-2 (NATOコード:フェイスプレート)、デルタ翼を採用したのが Ye-4 で、こちらが Ye-5、Ye-7 と改良を進め MiG-21 となりました。

 MiG-21 は中翼配置かつ胴体中心部にダクトを持ちながら、内部にキャリースルーを持たず、かつ単純な構造が最大の特徴です。翼弦長の長いデルタ翼にさらにもう一段長い縦貫通材を噛ませて荷重を前後方向に分散させて胴体に接合する事で強度を維持するという着想は天才的です。この縦貫通材はフィレットかストレーキのように飛び出しているので、写真でも見る事ができます。これを参考に考えると、ストレーキのある高仰角飛行対応型戦闘機は空気力学以外に、構造的にもかなり有利そうですね。

 このコンパクトな機体は、30mm機関砲2門のみの MiG-21F から始まり、赤外線誘導ミサイル対応の F-13、レーダー搭載の全天候型で固定武装を捨てた PF、GP-9 ガンポッドにより固定武装を部分的に復活させたPFM、パイロンが4つに増えてミサイル適性が増した S、GSh-23L を内蔵して固定武装が完全復活した SM、内部構造を全面的に見直した bis と進化を続け、最終的にはヘルメットキューイングでオフボアサイト射撃さえ可能な R-73空対空ミサイル対応の 93 にまで到達しました。

 超音速機の中でも比較的初期の世代に当たるためか、改良の度に垂直尾翼の面積が拡大され、燃料搭載量も重量バランスと空気抵抗の限界を試すかのように増大し続けるのが基本的な傾向となっています。

■サブタイプ進化ノート

 エデュアルドから発売されている 1/48 の MiG-21 を作ってみたいのですが、タイプが多すぎてどれを選んだらいいのか分からない!と困っていた所なので細かめに。太字は私的にメジャーだと思うサブタイプ。

  • MiG-21F

 1959年生産開始の極初期型。NR-30 30mm機関砲2基搭載。エンジンは R-11F

  • MiG-21F-13

 ミサイルに対応した基本形。NR-30 30mm機関砲を1門に減じる。垂直尾翼の面積拡大。

  • J-7

 中国による F-13 のライセンス生産型。これ以降の独自改良型 J-7E 等はソ連本国の PF → SM → bis の流れと無関係に動いている。

  • Ye-8

全天候型の MiG-21P と平行して開発された全面改良試作機。ユーロファイター・タイフーンのようなデザイン。エンジンの信頼性不足により開発中止。

  • MiG-21PF

 インテイクコーンを大幅に大径化しレーダーに対応した全天候型。機首上面に境界層空気排出口追加。固定武装廃止。背部燃料タンク追加。垂直尾翼の面積拡大。エンジンを R-11F2 に強化。

  • MiG-21PFS

 吹き出しフラップとドラッグシュートを採用、JATOにも対応した離着陸性能改善型。生産数極小で PFM へ移行。

  • MiG-21PFM

 MiG-21PFS をベースにさらに垂直尾翼の面積を拡大。射出座席の変更によりキャノピーが前開きから横開きに。指令誘導の空対地ミサイル Kh-23 にも対応しマルチロール化。GP-9 ガンポッド(GSh-23L)に対応する事で機関砲を復活。

  • MiG-21FL

 インド独自のライセンス生産型。基本的には PFM ベースだが射出座席は旧式で前開きのキャノピーを採用、吹き出しフラップを省略、エンジンは旧式の R-11F と独自色の強い構成になっている。全天候型 MiG-21 では唯一の海外生産機。

  • MiG-21PD

 PFM ベースの VTOL テスト型。胴体内部にリフトエンジンを搭載したため脚引き込み不可。西側への公開は1967年のドモデドボ航空ショーでの一回きりで直後にテストを中止した。

  • MiG-21R

 MiG-21PFM ベースの偵察型。翼下パイロンを4つに増設。背部燃料タンク追加。可視光写真・照明弾と赤外線写真、サイドスキャンレーダとカメラの三種類のポッドを搭載可能で、翼端に電子戦ポッドを固定装備(これは R のみの特徴)
1/48 ProfiPACK MiG-21R

  • MiG-21S

 MiG-21R ベースで PFM 後継の全天候戦闘機型。レーダは RP-22 で探知距離・追尾距離向上。このタイプは冷戦後になってから識別された。

  • MiG-21RF

 MiG-21S ベースでコクピット下部にカメラを固定装備し、偵察ポッドにも対応した偵察型。生産数は少ない。

  • MiG-21I

 Tu-144 のテストのためにデルタ翼を取り付けたテストベッド。1号機はコンコルドのようなオージー翼、2号機は Tu-144 と F-16XL の中間的なストレーキ部が幅広曲線クランクドアロー風で翼の形が異なる。(コンコルドと Tu-144 では翼平面系の処理がかなり違いますね)

  • MiG-21SM

 MiG-21S のエンジンを最大推力6490kgの R-13 に強化。GSh-23L 機関砲を内蔵。最多量産型と思われる。

  • MiG-21M

 SM のレーダーを一世代前の PFM と同世代までダウングレードした輸出型。

  • MiG-21MF

 本国型の SM とほぼ同じスペックの輸出型。東欧圏での標準的戦闘機。

  • MiG-21SMT

 SM の背部燃料タンクを限界以上に大型化。重心位置が後ろになりすぎて安定性に問題があったため生産はごく少数で、既存機も bis に近いデザインに戻された。特にマイナーなタイプだがユニークなシルエットのためか模型化されている。

  • MiG-21bis

 MiG-21SM から内部構造を見直し若干の軽量化、エンジンを R-13 から R-25 に換装、背部燃料タンクを幅広にすることで容量を増大、コクピットレイアウト見直し、レーダーのルックダウン能力を向上させた完成形。ソビエト連邦空軍の標準的前線戦闘機。

 MiG-15bis が最終型になったのを見て思ったのですが、ソ連の bis は「今までの積み重ねを整理して完成形にする」という意味があるタイプ名なのでしょうか?

  • MiG-21-93

 メーカの MiG 提案の改良型。R-73 による近距離でのオフボアサイト射撃、R-77による BVR 戦闘にも対応、多様な対地ミサイルも運用可能な原型からかけ離れた状態。インドでバイソンとして採用されている。


■細々箇条書き

  • シリーズ初のソビエト機だから編集の志が高め?
  • 東ドイツ空軍も戦闘航空団(JG)方式の部隊編成を続けている。これは国防軍時代とのネーミング的繋がりはゼロ?西ドイツとかぶる事はなかった?JG3 の名が残ってもウーデットを冠する可能性は皆無ではありそう。
  • ほとんどアパレル感覚のドットパターンが特徴で模型化もされているインド仕様は同一飛行隊内でもカラーもパターンもバラバラになっている。写真は Peter Steinemann のアーカイブから。*1

1/48  ミグ MiG-21 MF/Bis フィッシュベット <インド空軍>

  • アウトラインそのものが変化する改良が非常に多く、正確な模型化が特に困難な機種と思われます。
    • MiG-21F、F-13、PF、PFMの各タイプで垂直尾翼の面積が順次拡大。背部燃料タンクも毎回拡大。
  • 視界をあまり重視していない MiG-21 でもキャノピーはバブルタイプの断面型となっている。
  • 前開きのキャノピーは射出座席作動時に後部が座席に固定されパイロットを風圧から守る事を意図してのもの。作動不良が多く効果的でなかったため、PFMから通常の横開きに。前に開くキャノピーはこの MiG-21 か F-35 くらいだろうか。
  • 開閉式の胴体側面補助インテイクは横滑り時に対応。試作機段階で追加。
  • エンジンノズルの周りにも胴体(カウリング的な構造)があり外部に露出していないデザインを採用。東側に多いデザインでメリット・デメリットが気になるところ。
  • Su-7 で採用されていた車輪のめり込み防止スキッドは試作機の Ye-7 でテストされたのみ。
  • 主脚収納部には消化剤・圧縮空気・酸素のボトルが多数並んでおり、中東戦争ではここを貫かれる事により一撃で爆散した機体が多数。
  • 表紙は MiG-21PF がモデルだと思うのですが正直全く似ていません‥‥上から見たアングルの写真が少なかったため?