- 作者:田中 石城
- 発売日: 2014/11/30
- メディア: 文庫
かや書房から1997年に発売された『スクランブル 警告射撃を実施せよ』の2014年文庫化です。
防衛大学出身すなわち管理職中心でありながらテストパイロット資格を持ち、航空幕僚部副監察官(安全主任)のち航空安全管理隊・航空事故調査部運航調査科長、教育研究部長、幹部候補生教務課長、防衛庁技術研究本部岐阜試験場長といった経歴の著者による回顧録的エッセイ集となっております。
本書は普通の戦闘パイロットではなく安全・事故調査の専門家が書いた本であるのが特徴なのですが、これに関してはほとんど精神論的なレベルの内容で読み応えがありません。専門的すぎる内容を避けた結果とも思いますが‥‥。『メーデー!航空機事故の真実と真相』シリーズ的な興味で読んだ私的には残念でした。
現役戦闘機パイロットだった F-86F や F-104 の時代が中心の記述となっています。BADGEシステムがない手計算と音声誘導時代のソ連機迎撃におけるコンタクトの難しさが見てとれ、昔の空自の雰囲気が分かる一冊です。
気になったポイントメモ
- F-104導入時は沖縄返還前のため防空領域が一段狭い。
- F-104のナサールレーダーは North American Serch And Ranging Radar の略称。特に深い由来がある訳ではないんですね。単にノースアメリカン製というだけ。
- 編隊を組む際に二番機が「Tied on Scope and Visual」(レーダースコープと目視で捕捉した)とコールするのがかっこいいです。
- 夜間にアフターバーナーの炎を目印に「Tied on Visual」すると推力を絞った途端に見失うという情景が印象に残りました。
- 編隊を組む際に二番機が「Tied on Scope and Visual」(レーダースコープと目視で捕捉した)とコールするのがかっこいいです。
- ナサールはBADGEシステムと連結してレーダースコープ上に丸いマークを表示し動かす事で方位・高度・速度を指示できる機能付き。これが出現年代を考えるとなかなかハイテクな印象を受けます。
- 与圧服を使用した迎撃ミッションのエピソードが掲載されています。装備するのにかなり時間がかかりそうですが、超高々度・高速・日本に向かって飛来中のターゲットをレーダーサイトが探知した段階で距離に関わらず早めに準備をすれば間に合うようです。(この本では北朝鮮の打ち上げた気象観測用ロケットだった模様)
- 空自の戦闘機が飛行中に海自の艦艇を見かけたときは「奇襲」をかけて対空戦闘訓練を行わせたという話が出てきたのですが、これは海自側で実際に対応していたのか気になります。著者が海自幹部の親戚に会った際、通常の対空訓練は決まり切った手順を行うだけで効果が薄いため、模擬攻撃を行って欲しいという趣旨の事を言われたようですが。
- 有名なMiG-25亡命事件でアメリカからすぐに「ミグ屋」がやってきて分解方法などを指示したというエピソードがありますが、このチーム具体名とアメリカ側からの回顧録を読んでみたいものです。そもそも空軍所属?CIA所属?NSA所属?
- タイトルの「警告射撃」は1987年の「対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件」のこと。著者がこの機に搭乗していた訳でもないため、本編全体とはほとんど無関係です。この事件で射撃を行った F-4 パイロットはその後1年と経たずに事故死してしまったのが証言として悔やまれます。
- 戦闘機の警告射撃は曳光弾の火が弾底部から出ているため、撃っている側からはよく見えても撃たれている側からは思いのほか見えにくいという話が気になります。
- さらっと出てきた「マクドネル・ダグラスの技術者いわく F-15 はフラップ不要だが空軍の要請により後付けした」という話は本当!?
- さらに、ネット検索でXOH-1偵察ヘリの試作開発にも関わっていたというきわめて興味深い情報を得ました。
著者略歴
この項は他の航空自衛隊関係者の本を読んだ際に突き合わせるためのデータです。
- 1944年(昭和19年) 岡山県出身
- 防衛大学校 第11期入学
- 1967年(昭和42年) 防衛大学校卒業
- 操縦教育課程を修了後、F-86F、F-104、T-2、F-1、F-15等等に搭乗。テストパイロットとしての教育を受け20機種以上の操縦経験あり。
- 1991年(平成3年) 航空幕僚監部副監察官(安全主任)
- 1995年(平成5年) 航空安全管理隊・航空事故調査部運航調査科長のち教育研究部長
- 1997年(平成9年) 幹部候補生学校教務課長
- 1998年(平成10年) 防衛庁技術研究本部岐阜試験場長
- 2000年(平成12年) 定年退官
総飛行時間:4600.1時間