放課後は 第二螺旋階段で

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政治システムを未言語化部位まで記録する技術 「オーラル・ヒストリー 現代史のための口述記録」御厨貴

 政治史知識が皆無にも近いためこれを読んでみました。日本におけるオーラルヒストリーの第一人者が2002年に書いた本の2011年初頭改訂版です。

 聞き取り調査が定着する以前は語らずを美学とした政治家や高級官僚たちが、時代の変遷と聞き取りの定着と共に「何故自分の所に来ないのか」と言う者すら現れるようになるまでの事例と技術が具体的にまとめられています。

 正直に言ってしまうと、自分が読む順番があまり良くありませんでした。この著者による何らかの書き取り(例えば以下に紹介する後藤田正晴のもの。政治に疎い私ですら知っている人物)を読んでからの方が理解レベルがはるかに高かったはずだと感じます。具体的な事例紹介で登場する様々な対象の人物像が全く掴めていないまま読み進める事になってしまいました‥‥。

 特に下河辺淳*1は本書に於ける最重要人物でしょう。

 技術面においては、認識を不可逆に変えてしまわないまま引き出すための技法の考え方が特に興味深いものでした。「要するにこういう事ですね」「何故そのように」といったまとめを行うと先入観により聞き取り対象の認識も固まってしまうため、決して行わないように戒められています。調査者が持つ先入観の型に填めてしまう事が起こらないように細心の注意を払う必要があるのです。

 これにより、聞き手は特定の組織内の空気や理路など構造的で言語化が困難なものまでも認識できるようになります。

 また、若手を対象に現在進行中の事象について話す事で認識を整理させる手法の事例も紹介されています。これは企業人も実務になかなか有用なのではないでしょうか。

 あらゆる分野において限りない可能性を持つオーラルヒストリーと、それを縦糸横糸と組み合わせての世界再現は歴史学者の見果てぬ夢です。

政治史知識に疎いため現在は把握できないが、後々重要性が増す可能性の高い事柄メモ

  • 1960年代に、辻清明による戦前の内務省に関する聞き取り「内政史研究会」が作られている。
  • 欧米の指導者層は回顧録を書き評価を歴史に委ねる所までが任務であると認識しており、その著作は非常に重要である。
  • ベトナム戦争後にアメリカで一気に定着したオーラルヒストリー。その契機となったのはスタッズ・ターケル「よい戦争」アルバート・サントリ「EVERYTHING WE HAD-Oral History of the Vietnam War」(未邦訳)マーク・ベイカー「Nam 禁じられた戦場の記憶」である。