放課後は 第二螺旋階段で

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「天国にそっくりな星」 神林長平

天国にそっくりな星 (ハヤカワ文庫 JA)
Amazon.co.jp: 天国にそっくりな星


 「天使にはなれない」 ―坂北天界の手記のタイトル

 日光に当たると火膨れができてしまう「日陰病」にかかり地球に住めなくなった刑事、坂北天界は、太陽のかわりに青い海が空に光り影のできない中空星ヴァルボスへと移住した。日光の無いヴァルボスは、地球で暮らせなくなった日陰病の者にとっては天国にそっくりな星だった。
 彼はそこで探偵をしながらノンビリ暮らしていた。
 その探偵事務所に、ヴァルボス人の刑事ジャンドゥーヤが「ザーク」という犯罪者を捜して欲しいという依頼をもってやってくる。「ザーク」は一体どのような罪を犯したというのだろうか。「ザーク」とは何者なのだろうか。そもそも、ジャンドゥーヤをはじめとするヴァルボス人とは一体何者なのか。何故地球人類によく似て、対立も無く生きているのか。探偵坂北天界は捜査のなかでその理由を垣間見ることになる。


 この作品は、現実が仮想なのか仮想が現実なのかということについて思索する神林長平作品の文脈を押さえている人向けで、誰もがすぐに分かるものではありません。考えオチなんだけど、そうなっていることに気が付くのには経験がいるという。
 構成は主人公の坂北天界の一人称視点で進むもので、彼の思考をつねに見ながら進むことになるんですが、坂北天界は40歳近いという設定のわりには思考が若すぎてちょっと違和感があります。せいぜい20代後半くらいにしか思えません。実際40歳になってみると、こんなものなのかな……?
 「影のできない異星世界」という設定は、作中ではほとんど生かされていませんでしたが、設定そのものとしては作品世界のイメージ作りにピッタリ。
 「マトリックス」オチのあとさらにもう一段あるラストは驚きの展開で、そこでの解説を元にしてヴァルボスから出ることが本当にできるのか考えだすと、タイトルが二重の意味を持っていることが分かります。そしてホラーへ。。。