放課後は 第二螺旋階段で

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「ジェット戦闘機 Me262 ドイツ空軍最後の輝き」 渡辺洋二

 2013年最初の一冊。とはいえ2012年末から読み始めてましたが……
 寒い冬 :;(∩´﹏`∩);: といえばドイツ空軍の季節。

 本書は第二次世界大戦最強こと世界初のジェット戦闘機 Me262 の日本語基礎書籍に位置づけられるものです。そのため、これに書かれている位の内容ならネットでも知ることができるのではないかと後回しにしていた所を、今更ながらやっと読了しました。その結果としては新情報多数で、ネットはネット、本は本でした。

 Me262の開発完了までは記録文学的に、配備開始後は Me262 装備部隊の全てがいつどこで何をしていたのか網羅するかのような構成となっています。

 Me262 の開発着手は Bf109D の生産開始と同じ1937年。技術の進歩の速さと、配備される頃には戦争が終わりかけているというそれを上回る展開の速さが印象的。

 開発はまず BMW003エンジン の開発に手間取り。このエンジンは小型高出力を狙ったものの、極末期に He162ザラマンダー に搭載されただけで終戦。F-5タイガー に採用された小さな J85 にいきなり挑戦したような感覚で、さすが凝り性のドイツです。保険のユンカース・Jumo004 が完成しても、既存のレシプロ戦闘機の生産を削って未だ未知数な要素の多い Me262 の大増産には踏みきれず。その間に攻撃機化で寄り道、さらに戦略爆撃で遅れが拡大し続けるのは、後世から見ているだけでも惜しいところ……

 防空戦闘機よりも高速攻撃機を優先する方針はノルマンディー上陸の橋頭堡を叩くためのヒトラーのアイデアで、確かに必要な機種に思えるものの、適合する爆撃照準器は無く爆撃戦果はほぼゼロのまま戦争を終えます。


 配備部隊としては、有名人ばかりの第44戦闘団と、エースを基礎にして生まれた空対空戦闘部隊である第7戦闘航空団 "ノヴォトニー" は有名ですが、この本ではいまいちパッとしない第54爆撃航空団(戦闘機)も描かれます。この名前からしていわゆる「書類上だけに存在する部隊」の感が。Me262 の攻撃機化、制空権喪失による爆撃機パイロット余り、双発機慣れ、ドイツ本土上空の悪天候慣れの関係で優先的に機材を受け取っているものの、空戦経験には乏しく速度性能を生かしきれず……

 推力の微妙なコントロールが難しい Me262 のためにケッテ(3機編隊)を1単位にする手法は、第44戦闘団が編成される以前に、第7戦闘航空団でヨハネス・シュタインホフが発見していました。


 低率初期生産状態のまま終戦を迎えた夜戦型 Me262B-1a はクルト・ヴェルター率いるヴェルター隊がイギリス空軍のモスキート狩りにテスト投入。人的資源も開発能力も枯渇して個人が前面に出るようになったドイツ空軍は「エースコンバットZERO」か何かかという位の感覚に。

 第二次世界大戦末期のドイツはパイロット育成どころか、Me262の加速性能不足どころか、空を飛んでいるものは全て撃ち落されるのではないかという程にまで制空権を失っています。爆撃隊の護衛ついでに飛行場までファイタースィープに降りそそぐ P-51 と P-47 によるいわばリスキル状態。

 そんな情勢の結果として戦争の最終盤に二等兵パイロットのエースがちょっと登場するのですが、この人物は他の書籍・ネットで見かけないので全くの謎です。下士官パイロットどころか兵パイロットとは?未だ学生?

 単機の性能以外に何の希望も見い出せない状況の中で全部隊がそれぞれのベストを尽くしても、米英連合軍の1000機を越えるほどの爆撃の前ではせいぜい50機以下しか同時出撃できないMe262は無力。大局的な影響は無く終戦へ……

  • Me262 の開発中に検討された装備は、与圧・カタパルト発進対応・ダイブブレーキ・ドラッグシュート・ガンポッド等。離陸ロケットはテストで終わったのか実戦まで進んだのか不明。アメリカ系のカン型とは全く異なる棒形でどういう固体燃料(?)なのかも不明。
  • 尾輪式の Me262 試作機は、尾翼に当たる気流の関係上離陸滑走中テイルを上げるためにブレーキを踏む必要があり。少々怖い。
  • 開発中に行われた「高度6000mのMe323から湖面に投下しての機体強度試験」というものが一体何なのか気になっています。
  • ただ1機だけ生産されたヴァルター式ロケットエンジン搭載の混合動力型である Me262C 系は1.2分程度で高度6200m程にまで到達できたというけれど、この数字は1960年頃になって出現したミラージュIII並の数字では!?
  • 防空戦闘機として爆撃機の防御機銃からメッタ打ちにされるのが確実なのに、防御は防弾ガラス正面90mmだけでパイロット背面装甲板さえ省略されている飛行性能に対する絶対の自信は驚異的。
  • 高射砲に破壊されて未帰還になったアメリカ第8空軍・第15空軍機が全然出てこないように見えるのですが、これは読み違えたか……?
  • 終戦間際に第6爆撃航空団(戦闘)が Me262 の装備を開始。この部隊には隊長のヘルマン・ホーゲバクにちなんでホーゲバク戦闘団という異名が。
  • Jagdgeschwaderを戦闘航空団、その下にある部隊の Gruppen を飛行隊、Staffel を飛行中隊と訳すのが定着したのはこの本辺りからと思われる。
  • 飛行速度 m/s × 推力 kg ÷ 75 でレシプロ・プロペラ機の馬力に換算できるという推力馬力はこの本で初見。衰退した計算式?

過去の関連エントリ

Me262とエースパイロットを組み合わせた精鋭部隊全記録

Me262 の採用前に競争相手だったハインケル社の He280 をテストしたパイロットの手記を収録