放課後は 第二螺旋階段で

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隠れた怪作、海軍の陸上基地防空専用戦闘機の来歴。 「局地戦闘機『雷電』 異貌の海鷲」渡辺洋二

局地戦闘機「雷電」 (文春文庫)

局地戦闘機「雷電」 (文春文庫)

 戦史系の知識探求に行き詰まりを感じる昨今、気楽に読める本は何かないかなぁと積ん読の中から探したところ出てきたのがこの本です。結果から先に述べると、予想に反してリラックスして読めなかったのですが‥‥

 「海軍の陸上基地防空専用戦闘機」という冷静に考えると世界的にも珍しい機種、雷電の証言集を一つの時系列の上にまとめたような構成となっております。

 雷電は、理屈倒れで、登場時期も遅すぎ、飛行性能的にも大した事がなく、好きであるとはとても言えない機種なのですが、その短い戦歴はこの文庫本で余すところなく紹介されています。

 ドイツ機の高い上昇力や加速力そして犠牲になった視界を見慣れている私は大戦後半にもなってこんな普通の防空戦闘機を出しても勝負になるわけがないと考えていたのですが、20mm機関砲4門の火力は B-29接触さえできれば必ずと言っていいほど致命的なダメージを与えることに成功していたようです。思いのほか有力な戦闘機であると考えを改めました。

 ただしエンジンの焼き付きがあまりにも多く、出撃するだけで必ず一機は失われるほどのペースであり、日本の基礎工業力あるいは潤滑関係の設計ミスが強く印象に残る結果となってしまいました。

 本としての構成は誰にインタビューを行い誰にインタビューが行えなかったのか透けて見えるものであり、これが読み進める上で妙な引っかかりのある印象を受けました。書かれている事・書かれなかった事の隙間を意識してしまい、展開に集中しきれないのです。

ほか印象に残ったエピソードを箇条書きで記録

  • 1937年ごろに中国大陸で九五式艦戦・九六式艦戦を装備して戦っていた部隊が、1500〜4000mで突入してくる敵攻撃機部隊に対して有効な迎撃を行えなかった事が開発の契機となった。
    • 第二次世界大戦後半の高々度迎撃は想定外の戦闘シーンであるという事になる。
  • エンジンの火星は P&W R-2800 よりも20mmほどながら直径が大きい。排気量は火星が42.1L、R-2800が2800立方インチすなわち45.9Lである。
  • 試作機は無線を積んでいないため(なぜ?)脚が降りなくなった際は設計者の曽根嘉年が九六式陸攻に乗り込みチェイス機とし、並走しながら黒板で緊急足出し操作を指示した。ジブリのアニメ的。
  • 延長出力軸を使用しなかった銀河(エンジンは誉)でも試作段階では雷電同様プロペラとの共振に悩まされていた。プロペラを肉厚のものに換装する事で効率低下と引き替えに問題は解決された。
  • 「特設飛行隊」を雷電の戦歴で理解。部隊の大規模な移動が思うようにならなくなった1944年3月ごろより、航空隊司令部と飛行隊の固有の結びつきを解き、戦況に応じて適時組み合わせる方式である。
  • この本にも特攻拒否で有名な美濃部正が少しながら登場する。防空戦闘機部隊である第301海軍航空隊隷下の戦闘316飛行隊を編成する際に艦載戦闘機系ではなく水上機系の搭乗員を採用したのが特徴。夜間・薄暮・黎明飛行の特技を持っている事を重視した。
  • 雷電が熟練搭乗員に嫌われた理由の一つは、上昇角の強さにより地平線が見えない事。見えるような上昇力では勝負にならない時代なのに。フライトシミュレータで正面視界がないヨーロッパ機に乗り慣れた私は「前下方ではなく右や左を見て主翼との位置関係で把握しなさいよ」と考えてしまう。前下方視界重視は海軍艦載戦闘機乗りとしての教育の結果?
  • 同じ搭乗員でも士官は士官、兵曹は兵曹とごく普通に待遇差があった。士官室で従兵がコーヒー出してくれたり。
  • 空対空クラスター爆弾「三号爆弾」をかなり多用していた。これによる撃墜戦果も珍しくない。
  • 極末期には雷電から秋水への機種転換訓練を行った者が10名ほど存在した。(実戦参加なし)

次に調査したい派生分野は‥‥

  • 火星だけでなく誉でも頻発したクランクシャフトベアリングの焼き付き。これは面圧があまりにも高く、それに材料のメタル、あるいは油圧系の設計が追いついていない事が原因であると言われているがその詳細なメカニズム。
    • 面圧的にはぎりぎり耐えられるように設計していてもクランクシャフトの製造精度不良によるたわみから来る圧力の不均等性が主因か?クランクケースの剛性不足による不均等性?
  • 日本軍の防空システム・早期警戒システム。
  • 芙蓉部隊。

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