放課後は 第二螺旋階段で

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シンプルなタイトルながら空の決戦までのお膳立てが分かる一冊「戦略空軍」 トーマス・M・コフィ 翻訳:手島尚

 この本は最近のミリタリー関心的*1に「当たり」でした。ドイツ空軍防空部隊から見ると「顔のない敵」であるアメリカ陸軍航空軍戦略爆撃部隊がいかにしてその戦力を集積し、いつどこに向けたのか、その経過と決断を第8空軍の指揮官アイラ・エイカーによる1943年8月17日と10月14日のドイツ・シュヴァインフルトのボールベアリング工場集中爆撃計画を通して描いた一冊です。

 単に「圧倒的物量」で片付けられがちなアメリカ軍であっても戦略爆撃のために高価な四発爆撃機と航続距離の長い護衛戦闘機を集積するにはかなりの時間を要し、たった一度の攻撃で乗員もろとも大量に失ってしまう大きな「決戦」なのです。

 この決戦兵器である B-17 は対潜哨戒部隊もアフリカ部隊も喉から手が出るほど欲しい重要機材であるため、指揮官は戦闘のみならず米国合衆国本土の上層部との交渉も行わなければなりません。

 さらに、爆撃が終わった後の戦果確認は偵察機による写真撮影のみで可能であり実際どの程度の域に達しているのか分からず、しかしながら空中戦で受けた損害は確実な現実であるため、指揮官は必然的に難しい立場へと押しやられるのです。エーカーはこれを跳ね返すことにも成功します。


■第8空軍とは何か?

 アメリカ陸軍航空軍において最も有名な部隊です。

 第二次世界大戦のヨーロッパにおいてナチスドイツ防空軍と死闘を繰り広げた、アメリカ人の勇気についてのある種の原体験、象徴的存在であり、戦果の大きさだけでは計り知れない文化的影響を与えています。

■登場人物紹介

 数も転出転入も多く把握しにくいため、翻訳小説のようにまとめを作りました。この本に限定せず使う事ができると思います。

アメリカ陸軍航空軍

  • アイラ・エーカー

 この本の主人公。アメリカ初の実戦戦略爆撃部隊である第8空軍をイギリスで編成するために奮闘する。階級は准将。B-17 の持つ防御火力・ノルデン照準器の精度等の相乗効果によりドイツ軍の生産インフラに対する昼間精密爆撃が最適であると強く信じている。部隊編成後は実戦機にも度々搭乗し陣頭指揮にあたった。

 なお、ノルデン照準器を装備した B-17 の爆撃命中率はテストにおいては以下の通り。

  1. 100m四方で 10%
  2. 半径250mで 25%
  3. 半径500mで 40%
  4. 半径1600m(1マイルか?)で 90%
  5. それ以上の外れは主にシステムの動作不良を原因とする 10%
  • カール・スパーツ

 第8航空軍司令官。少将待遇。(後半は中将)アイラ・エーカーの古くからの同僚であり友人。本書で主題となっている1943年のシュヴァインフルト爆撃時は北アフリカの第12空軍を指揮しており、この部隊は第8空軍から借りた重爆撃機多数を使用していた。第12空軍は第8空軍の戦力を遊ばせていたのではなく、アフリカ側から協調して動いている。

  • ヘンリー・アーノルド

 アメリカ陸軍航空軍全体の司令官。つまりエーカーの上司にあたる。

 第8航空軍においてはエーカーの部下にあたる爆撃隊の実戦指揮官。後に対日戦での戦略爆撃指揮で有名になる。

  • フーバート・ゼムケ

 第8空軍内の第56戦闘航空団の指揮官。主な装備機は P-47サンダーボルト。後に回顧録「P47サンダーボルト戦闘機隊―名戦闘機隊長ゼムケ大佐、語る」でも知られる。
P47サンダーボルト戦闘機隊―名戦闘機隊長ゼムケ大佐、語る
P47サンダーボルト戦闘機隊―名戦闘機隊長ゼムケ大佐、語る


■イギリス空軍

  • アーサー・ハリス

 通称「ボマー "爆弾魔" ハリス」イギリス空軍爆撃機軍団司令。多数の戦略爆撃機による夜間爆撃でドイツの戦力を安全に削ぐことができると強く信じている。産業関係の施設を狙い撃ちするのはH2Sレーダをもってしても困難なため、労働者住宅を広範囲に破壊するで不満増大・内部瓦解を狙う。この戦法にアメリカ軍も加わってもらいたいと考えている。

 ローデシア出身で、陸軍のローデシア連隊入隊後、第一次世界大戦に伴いヨーロッパへ。その後陸軍航空隊の見習士官と叩き上げで登り詰めた。
(イギリス植民地の陸軍は、例えばローデシア軍ではなく、イギリス軍ローデシア連隊の扱い?若干あいまいな部分あり)


アメリカ陸軍最上層部

 1939年より陸軍参謀総長。ヨーロッパ侵攻作戦全体の計画指導を担当。

 マーシャルに信頼され1942年より陸軍参謀本部作戦部部長、ヨーロッパ戦域司令官などを歴任。のちのアメリカ合衆国大統領。(ハリー・S・トルーマンの次)

■ドイツ空軍

  • 第1戦闘航空団エーザウ
  • 第2戦闘航空団リヒトフォーフェン
  • 第11戦闘航空団

 「空対空爆撃戦隊」を書いたハインツ・クノーケが所属。タイトルに使われている空対空爆撃は1943年10月14日のシュヴァインフルト爆撃迎撃において成功。
空対空爆撃戦隊空対空爆撃戦隊

      • この項の参考記事

    くそありがとうございましたーーーっ! - からくり旅団日誌
    http://d.hatena.ne.jp/karakuriShino/20081002#p1

  • 第26戦闘航空団シュラゲーター

 通称「アベヴィル・ボーイズ」フランスのアブヴィルを本拠地にしていたドーバー海峡の護りたるエース軍団。著名な指揮官はヨーゼフ・プリラー。

  • 第51戦闘航空団メルダース

 1943年8月17日のシュヴァインフルト爆撃を迎撃し、この際フーバート・ゼムケの P-47部隊とも交戦。


以下本書に関するデータ部

  • 原著タイトル:Decision Over Schweinfurt : Ther U.S. 8th Air Force Battle for Daylight Bombing
  • 原著クレジット:Thomas M.Coffey
  • 原著発行年:1982年
  • 日本語初訳時期:昭和58年4月15日 (1983年)(文庫オリジナル)

おそらくアイラ・エーカー本人に対するインタビューを元に記述されている。

関連エントリ

 同時期の同部隊の戦闘機隊の活躍を記録する。

 この航空戦をドイツの防空戦闘機隊側から見た写真集。

*1:そもそも「戦力」とは何か?「集積」とは?「決戦」とは?等の定義・実例的な突き詰め