放課後は 第二螺旋階段で

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少年と永遠 「ウは宇宙船のウ」 萩尾望都

ウは宇宙船のウ (小学館文庫)
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 自分の人格形成と萩尾望都の相性が良さそうだと知ったこと、レイ・ブラッドベリの感覚に浸りたいことからこの本を読みました。

 何といってもまずは表題作「ウは宇宙船のウ」が良いですね。一冊の本が始まるのにこれ以上ないようなエピソードです。精神的にも物質的にも恵まれた古き良きアメリカの暖かな家庭、心から通じる友から離れ、少年は飛行士という永遠のものに向かって旅立つ。崇高さへのあこがれ。救われた信仰心。そしてこんな世界から脱落してしまった自分にも気づかされる哀しみもまたありました。

 テクニカルな見方をすると、1ページが基本4段構成で少なくとも6コマ、多ければ9コマほども詰め込まれている密度感が作中世界をわずかなページ数で表現する力を発揮しています。

「泣きさけぶ女の人」「霧笛」は、この本の中ではサスペンス系な面白さ。子供の時の世界が底知れない感覚が印象に残っています。

「みずうみ」
これも好きな話です。波に消える足跡といなくなった少女を描く詩。この世にはもういない者だけが永遠の中にいられるのです……

「ぼくの地下室へおいで」この話はよく分からなかったというか、元が少々素朴すぎる感が‥‥タイトル画の白いシルエットを基調とする美青年の描き方が無性に好きです。
 
「集会」これは普通の人間になることができないという自覚が強かった10代のうちに読みたかった‥‥今ではもう好きな話にはなっても、突き刺さったり救い上げられるほどにはなりません。自分は自分でしか救えない感覚が強くなりすぎてしまった。

「びっくり箱」人格形成と萩尾望都の話が一番直接的に出ているのはこの話です。河出書房から出た本*1に両親インタビューが載っているのを見かけた際に「勇気がある」という感想を持ったのを思い出します。

「宇宙船乗組員」
これがこの本ラストのエピソード。家にたまにしか帰らない宇宙船乗組員の父はもう死んだようなものだと母は云うけれど……目に見える宇宙である星空、それは生と死の境界線上にある空間。昼に見える星と死が結びついた時、何も語らずただ静かに生き方を変えるのでした。ラストの霧雨の中の1ページ大コマでこの本が静かに終わる。

 これ一冊を通して、萩尾望都ブラッドベリの力をようやく知ったのでした。一体今までどれほど多数の機会があったのか。