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私が初めて見た「画の良いアニメ」が今作である。
「衛星が地球の影に入るため放送休止」となる不安定でSF的な雰囲気のあった時代のNHK-BSか、それを録画したVHSという視聴環境だった。
そして、全く作風の異なる作品のオムニバスにより描き方に種類があると気づいたのだ。
彼女の想いで
- 私的一行あらすじ
遭難宇宙船はオペラ鳴り響く薔薇の幻惑迷宮だった…遠い宇宙で家族の悪夢を見る。夢から覚められず全ては宇宙空間に飲み込まれる。
- 私的感想
初見時に画の美しさで大変感動した記憶がある。舞台上で家族の彫像を銃の猛射で破壊するシーンは恐怖であった。
現在の視点で具体的に見ていくと、無重力空間で「わっ」と驚いて口から飛び出したタバコがスススとゆっくり回転しながら身体から離れるような、隙を詰めてリアリティを出す表現が見事。
カメラ構図のとり方も独特で、Powers of Ten のように超ロングから超クロースまでの異様なほど広い範囲をシームレスに使用している。例えば、ハンガーの宇宙船に乗っている者の顔からずっと引いていくとそれが窓から見える管制室の場面となるようなシーンである。
正体の知れない遭難宇宙船内という何が起こるのか分からない場で、ファーストパーソンビューで90度横を向いただけで全くの異世界が見えるカメラ演出は、今敏の携わった作品であると一目でわかるスタイリッシュでインパクトある表現ではあるがリアリティは無いので、オムニバス中の一作程度でなければ辛いものがある。
井上俊之によるキャラクターデザインは若干ながら『化物語』が入っているようだ。時系列が逆だが。目頭と目尻の粘膜をはっきりと描く珍しいタイプである。
どんな作品でも名作になりそうな程にすばらしいまるでプッチーニのようで実はそうでない音楽を製作したのは、菅野よう子とチェコ・フィルハーモニー管弦楽団。
全体を見て今の感想を述べるなら、技術に走りすぎてシナリオの起伏に乏しく、因果が曖昧すぎるが、音楽の力により壮大な物語の一部だったように感じられるという所である。
最臭兵器
- 私的一行あらすじ
製薬会社の試作品を飲んでしまった男。彼は嗅いだものがたちまち意識を失うガスが大量発生する体質になっていた。危険人物を日米政府が全力を尽くして止めようとするのだが…
♪ルルルやまなし おはようやまなし ルルルやまなし
- 私的感想
「面白さ」では今作が3作中のトップである。
最初のシーンで作中のTVから流れる「やまなしの歌」が持つ作中世界のリアルに一気に引き込まれる。初見時もこうだったことを非常によく覚えている。きっと私は死ぬまで「♪ルルルやまなし」の歌を忘れないだろう。
ガス体質になった主人公を食い止めるために軍がリアルな地方都市の中で大暴れするのだが、主人公のとぼけた性格、ガスの副作用で急激に増加して画面を華やげる花、戯画的にキャラの立った幕僚たちにより殺伐とせず、スラップスティックなテイストとなっている。
危険ガス源となった主人公を迎撃するのは!海上自衛隊のS-61だ!陸自OH-6のヘリスナイパーだ!トンネルを抜けたらそこはF-15の大編隊だ!艦砲射撃も雨あられ!橋までたどり着けば今度は90式戦車の行進間射撃だ!それでも駄目なら、現代軍からかけ離れた宇宙服を着た未来特殊部隊だ!
このグレードアップのテンポ感が愉快。
オチも主人公のキャラを生かしていて秀逸。
全くの余談になるが、アメリカ軍の指揮官が黒人のクール・インテリ系なのは湾岸戦争の名将コリン・パウエルを踏まえてのデザインと思われ、ちょっとした時事ネタとなっている。声は大塚明夫である。英語もしゃべる。「コリン・パウエルをモデルにしたキャラクター」は他にも幾つかの作品に登場していそうだ。
大砲の街
- 私的一行あらすじ
すべてが砲弾を発射するために作られた異常な街に住む親子の普通の1日を描く。
- 私的感想
最臭兵器の次でラストを飾るにふさわしい実験作だが、初見時の記憶はほとんどない。
全編1カットと云われることが多いが、実際には非常に長めにとっているだけで必要な場面では普通にカットを割っている。「宇宙空間をPANするとガンダムになる」*1ように、今作も大砲の街空間をPANすることにより、作中世界における全周視界、没入感の表現に優れている。
制作方法の関係上カメラの向き変えに厳しい所があるため、ヘッドフォンで音の定位を良くして鑑賞すると効果的である。
煙はアナログのタッチを生かした簡単なものをコマ送り程度の動きで表現しているのだが不思議とリアル感があり、『スチームボーイ』のような凝った表現は手間ばかり増えて効果は薄いのではないかと推測される。
キャラクターデザインの細部や色彩設計は『ファンタスティック・プラネット』を非常に参考にしている?