放課後は 第二螺旋階段で

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黎明の後退翼機 「世界の傑作機 No.97 MiG-15 ファゴット / MiG-17 フレスコ」


 後退角60度の Su-7 の号を読んだので、その前世代にあたる後退角45度の MiG-17、さらにその前身に当たる35度の MiG-15 がまとめられているこれを読みました。

 第二次世界大戦後、ドイツから得た新技術「後退翼」の実用化初期の代表作 MiG-15 とその全面改良型が MiG-17 です。


 MiG-15 と F-86 は共に後退角35度の類似機種ながら、内部的にはかなり異なっていました。

 まず第一に防空と制空戦闘で設計思想が違います。これにより航続距離と燃料搭載のための構造、搭載火器の口径の大きさが異なります。

 主翼桁構造においても、F-86 は性能追求のため削り出しのテーパー外板と桁の組み合わせを採用していますが、そのような工作機械を持たないソビエトでは、翼の方向に沿った桁二本に加えて機軸に対して直角の補助桁を採用して、その間にできる三角形の空間を利用して主脚を格納するなど大戦機の延長線上にある身の丈に合った手法を採用しているのです。

 この製作しやすい構造の力もあってか、総生産数は17000機にも達しています。(練習機型含む)


 しかしながら MiG-15 は高亜音速飛行から降下中の超音速飛行に適していなかったため、全面的な改良が行われることとなりました。これが MiG-17 です。

 MiG-17 は後退角が45度(外翼42度)にまで増やされ、短すぎて安定性を損なっていた胴体も90cm延長されバランスの取れた機種となっています。

 MiG-15/17 そのものは非常にユニークかつ強力な機体なのですが、本書の記事は冷戦期の西側一般ファン目線で書かれているものが多く、ソビエトの運用思想・設計思想に最適化された特長を拾わず相違点はアメリカ機に対する欠点であると決めつける傾向があるため、これを読むなら無理をしてでも Yefim Gordon の本を読んだ方が良かったかもしれないですね‥‥

 ミリタリー本は描かれる対象国の目線に立たなければ論理に筋道が立ちません。

■MiG-15 vs F-86

  • 空虚重量 3582kg vs 5046kg
    • エンジン重量 872kg vs 1158kg
  • 推力 26.5kN vs 26.5kN
  • 推力重量比 0.42 vs 0.29
  • 翼面荷重 262kg/m^2 vs 275kg/m^2

 何といっても重量が全く違います。これは遠心式ジェットエンジンの軽量さと、それを支える構造重量の軽さ、剛性不足気味で軽量な翼構造も効いていたのかもしれません。

■細々箇条書き

  • MiG-15 は加速力・上昇力で F-86 を圧倒していたものの、その理由はこの本ではほとんど明らかにされていないため上に表を作りました。
  • 搭載火器の N-37 37mm機関砲×1 と NR-23 23mm機関砲×2 はパレットにまとめる事により整備性が高められています。このアイデアはこの機種が世界初なのでしょうか?ホーカー・ハンターの ADEN 搭載法はこれを参考に開発された?
  • かなり激しい被弾にも耐えたのですが、その理由は不明です。
    • 主翼内部に燃料タンクを持たないドライウイングのため発火しにくかった?
    • 尾翼と胴体の結合は眼鏡円框で引きちぎれにくかった?
    • 水平尾翼の位置が機軸から大きくずれているため破壊されにくかった?
  • MiG-15 は bis になるまで人力操舵だった。(bis 以降油圧)Gスーツにも非対応。
  • 試作型のスピードブレーキ無しから始まり、型式が進むにつれて順次面積が拡大されました。
  • 航続力不足を補うため、翼下面に密着するスリッパタンクを固定する事もあった。
  • トータルデザインは進んでいるのですが細かな部分が大戦機感覚です。
  • キャノピーのシーリング・与圧には圧縮空気ボトルを使用。エンジンのブリードエアの与圧も使用していたらしい書き方で、ここがよく分かりません。
  • MiG-15 が戦闘機として生産されたのは1949年から1952年のわずか3年間。
  • 西側世界が飛行可能な MiG-15 を手に入れたのは朝鮮戦争休戦後。戦中は細かな性能特性差は分かっていなかったはず?
  • MiG-17 はベトナム戦争においてガンのみで F-105 から F-4 まで多数を撃墜しています。
  • MiG-17PF(全天候型)も参戦。MiG-17PFU(セミアクティブレーダー誘導と赤外線誘導の空対空ミサイルに対応)はソ連防空軍のみ。
  • 対艦攻撃もごく少数回実行。
  • ポーランドによる MiG-15 のライセンス生産は Lim-1(MiG-15) Lim-2(MiG-15bis)Lim-5(MiG-17F)と多数。第二次世界大戦・冷戦を乗り越えて今も生き残っている PZL という航空機メーカーが一体どのような組織なのか気になるところです。
  • MiG-15 のペーパーナイフのような側面シルエットはロゴにするために生まれたかのよう。

■関連書籍

おそらくベスト。本書のメイン資料?(2011年発売となっていますが2003年発行の本書文中に出てきます)
Mikoyan MiG-15 (Famous Russian Aircraft)
Mikoyan MiG-15 (Famous Russian Aircraft)


こちらの方かも?
Mikoyan-Gurevich Mig-15: The Soviet Union's Long-Lived Korean War Fighter (Aerofax)
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英語圏の「世界の傑作機」的な Warbird Tech
Mig-15
Mig-15 "fagot": Mikoyan Gurevich vol.40(Warbird Tech)