- 作者:厚司, 広田
- 発売日: 2007/06/01
- メディア: 単行本
内容はタイトルの通り。
戦闘機や爆撃機だけでなく、水上偵察機、飛行艇、哨戒機、ミステル航空機転用誘導爆弾、空挺降下、工場といった写真まで収録されているのは珍しい要素かもしれません。
また、第二次世界大戦近辺のドイツ空軍史を時系列順に簡潔にまとめた文章や、各航空軍の編成配備状況、司令官名が併録されているのは便利なポイントでしょう。この本では2007年という最新の視点で第二次世界大戦ドイツ空軍の戦いを俯瞰することができます。
私的には、飛行艇やミステルや空挺降下の写真が特に貴重で、最近出回っているカラー写真が全くないのが残念でした。
広く浅くといった一冊で、2000円という価格は内容からすると高額な印象です。写真の版がそれほど大きいわけでもなく、印刷が格別鮮明ということもないので、こういった作りの本は廉価な文庫版で出すべきだと思います。昔は文庫版の写真戦記シリーズ、ありましたよね。「昔が安すぎただけ」と言われればそういうものかと納得もできますが…
なぜこれを読んだのかというと、久しぶりに模型工作をしてみたいと漠然と思ったからです。というわけで、以下初級〜中級模型ファン向けな感想とメモ。
モットリング迷彩のパターン
航空機模型愛好家がエアブラシを導入したとき真っ先に試したくなる塗装といえば、エアブラシの特徴を最大限に生かしているドイツ空軍モットリング迷彩でしょう!(断言)
というわけで、以下に特徴と自分の経験的手法をメモしておきます。
分類法は独自ですので、もし参考にする方がいましたら自分の気分で判別してください。
- 上面ゆるフワ+煙タイプ
Bf109等。
上面暗色部分のボケ足が長く、斑紋が煙のようにボンヤリふわふわしているタイプ。
このパターンはコンプレッサの圧力を目一杯下げて、塗料:溶剤が1:5程度かそれ以上にまで薄め、色がついているのかいないのか分からないくらいの調子をフリーハンドでしつこく重ねて描くと、描いた本人が驚くほどリアルな仕上がりになります。
塗料が薄すぎて1ストロークでは色がほとんどつかないため、迷い線ができても分からないか、そういう味のボケ足で済んでしまい、フリーハンドで簡単に格好良く決まるので好きなパターンです(笑)
- 上面波線+斑紋タイプ
Bf109等。
上面暗色のボケ足が短く塗り分けラインは波線状、斑紋は輪郭が判別できる曲線図形なタイプ。これを再現する場合、斑紋はボケ足ゼロでもほとんど違和感がありません。
塗装した整備員さんがボケ足無し気分で一気に塗ったと思えば当然でしょうが。
浮かせた型紙で斑紋の短いボケ足を表現する手法が一般的ですが、大スケール以外では密着させてもほとんど問題が無いと思います。それくらいボケが少ないパターンもあるということです。斑紋の色はかなり明るめにしておかないと仕上がりに違和感が出がちな印象ありますが。
上面塗装のボケ足は、ゆるフワ煙タイプのように薄めた塗料で描き込むか、浮かせた型紙を使うかをしてぼかさないと、さすがに強い違和感が出ると思います。フリーハンドな波線塗り分けラインなので。
- 筆塗り(?)タイプ
Bf109。
エアブラシで斑紋を描く代わりに、薄い塗料をハケにつけてザクザクと幅広の線をなすり付けていったような塗装の機体もありました。筆を折り返すところの塗色は濃くなります。
模型工作の雑誌でこの表現を手法込みで再現した作例を見たことがあり、あまりの汚さに若干のショックを受けたほどでしたが、実機も恐ろしく汚く乱雑です。
基本的にG〜K型の末期系に多いようです。
- 円形タイプ
Bf109。
ボケ足がかなり短い吹きつけ塗装で描かれた○をたくさん並べたような柄の機体も存在。模型で再現すると難しい割に格好悪いだけかも…
何故こんなカラーリングがあるのか…かっこわるいです。
- 砂漠タイプ
Bf109。
黄系+緑系斑点な砂漠迷彩は、上面のボケ足短く、斑紋は細かく多数のものが多い。
上面色のイエローは赤みが強く少し茶色寄りで暗めの色、斑点はグリーンと名が付いていますが茶色に寄せた濁った色を選ぶと、本物の雰囲気に近いまま格好良く仕上がりそうです。
私は本物のイメージをほぼ無視して明るいサンドイエローとオリーブグリーンという気分で作ったことがありますが、この場合は明るくて綺麗だけどちょっとウソっぽい感じになりました。
この項は本の内容とかなり離れ、本書掲載の白黒写真と最近見かけたカラー写真との複合で書いています。
- うねりタイプ
Ju88等。
黒地に白系の蛇行線がついたようなタイプ。
これはボケ足が全くといっていいほど無いのと、意外と角が立った線でできているので、筆で書いたほうがリアルに仕上がりそうです。実機は筆塗りですし。(作業写真が掲載されています)
実物は格別汚いので、リアルに再現する方向で塗装すると見られたものじゃなくなるかもしれません。美術系な気分で塗装した方が格好は良くなりそうです。
Bf109と若干違うFw190の迷彩
Fw190は、カウル先端になっている輪型オイルクーラー(だったと思う)*1、カウル、機体といった各節で塗り分けラインが切れている機体が珍しくありません。
先端部は全て上面暗色、次の節が膨らみのあるカウルパネルの下開閉ラインの所まで暗色で塗り分けラインが直線、カウル本体でようやく機体と同じボケ有り塗り分けパターン…だけど機体本体とラインが少しずれている、なんて機体もあったり。
カウルがロール方向に若干ズレていても固定できる構造になっていたのでしょうか。*2
Bf109は頭からコクピット、コクピットから尻尾までそれぞれが一直線。
また、Fw190のほうが非常に長いボケ足をもった塗装の機体が多いようです。理由は不明。
意外と目立つコーション類
機体表面に書かれている取扱注意(給油口燃料87オクタン指定・搭乗時足かけポイント)等は真っ白で描かれているため結構遠くからでも目立ちます。
なので、ここの表現が誤っている場合、小さな点ながらも急激に違和感のある印象になってしまいます。
迷彩塗装全般に対する気分の話
実物のほうが模型より大抵汚いです(笑) 塗装粒子の飛び散りがすぐ分かる機体もそれほど珍しくない位。
塗色はノリで決めるのも悪くないと思います。色調なんて光の具合で相当変わりますし。
晴天なら暗い塗装も明るく柔らかい色に、曇天なら本格的に重苦しい色に…
「この作品の天気は何なのか」を意識するのは、格好いい色作りにおいて特に効果的だと思います。
細かい工作に関する話題
Bf109F以降についているラムエアインテイクのフチは結構厚手で少し丸まっていて、リアリティの観点でみると特に薄くしないほうが正解みたいです。薄くしたことがある…
ジオラマ・ヴィネット作成のシチュエーションに関するヒント
- シャツがない
アフリカ戦線や夏期になると、上半身裸で整備作業をしている整備士・パイロットが大多数というくらい。彼らはなぜそんなすぐに脱ぐんだ(笑)
シャツの品質が悪かったといった要素もある?
- 世界最速のノーヘル者
パイロットはヘルメットどころか飛行帽さえ被らず出撃している人もそこそこいたようです。
防弾板はいくらでも付けるのにヘルメットは被らないって不思議と思いましたが、この時代は歩兵向け鉄帽位しかヘルメットってものがないのでしょうか。
ベークライトやナイロンは一応生産されていたようなので、現代のものに似せた構造の物を作ることは不可能ということはなさそうです。(さらに調べたところ、パイロットヘルメットは現行品でも全くといっていいほど防弾性能は無いようです)
■模型向けと書きはしたけれど、戦史についてもメモを掲載
この本では、通常の昼間戦闘航空部隊以外に、空輸部隊、対空砲部隊、夜間迎撃部隊に特に多くの記述を割いています。
以下戦史に関するメモ。
小説になりそうな戦い
行間を読んで「宮崎駿の雑想ノート」的な膨らませ方をしたくなるエピソードを見かけたので紹介。
- 国を背負う日
第二次世界大戦直前の1936年から1937年にかけて、ドイツ空軍特殊飛行学校は週一回のペースで数機のJu52で編隊を組み、ドイツ・ハノーバーからリビア・カステルベニトまで、昼夜を問わず10時間2080kmの航法訓練を行っていました。
学生生活の終わり前、世界の広さを知り、自らの技術がおそらく近い将来に起こる戦争という命のやりとりの場で試されることがほぼ確定した瞬間、彼らは何を考えたのか…
その後の1943年、スターリングラード包囲防衛戦になると、航法学校の学生と教官パイロット、それに訓練仕様機という非常にハイリスクローリターンな部隊まで空輸作戦に招集されてしまいます。
学生まで戦闘に駆りだしたらもう先はないですよ。しかし戦わさせざるおえない。そんな状況で教官と学生は何を思いどのようなやりとりをしたのか…
- 対空砲クラブ
英米連合軍による本土爆撃に対して対空砲部隊を猛烈な勢いで強化したドイツ軍は、高年齢者や子供も動員しはじめます。それに参加した少年の回想を一部引用。
1943年1月15日、私の16歳の誕生日に学校へ電話があり、学年全員が防空部隊に配属されることになった。われわれの配備先はベルリン西郊外のシュパンダウ付近の防空壕で…
(中略)
この砲座は2名の空軍士官と30名の下士官兵、および少年兵100人と30人のロシア人捕虜から編成されていた。
(中略)
少年兵で一番上位の任務は指揮官の指示にしたがって、「対空砲小隊射撃準備!」「発射!」と号令をかけることだった。
(中略)
英爆撃機を迎撃した翌日には朝寝坊が許され、通学も免除されるという特別待遇があった。
この対空砲兵生活は非日常的と日常が噛み合っていて、なかなか独特な体験。
ドイツ戦術空軍
この本では、ドイツ空軍の空輸作戦量の多さを知ることができます。
どの戦線でも、包囲→空輸補給or空挺作戦→逆襲or脱出の連続。
人的資源に余裕が無いドイツ軍は終始危ないときの空挺頼み。
そしてその空挺戦闘経歴の多さから、超高速のジェット機Me262を突破攻撃機化したくなる気持ちを読みとることができるようになります。
こわれもの攻撃機
致命傷には決してならない小銃弾程度でも命中すると傷はつき、その補修に手間をとられ、稼動機が減少していくという記述があります。
いくら重装甲で撃墜されなくても損傷状態のまま飛行させるわけにはいかないので当然といえば当然ですが、この「データに出にくい損失」に気づけたのは新しい視点でした。
意外と物持ちドイツ軍
1944年初頭は合成石油等の生産が非常に順調で、石油備蓄量は開戦前を上回るほどだったそうです。もっとも、年末には徹底的な戦略爆撃により燃料の枯渇が始まっていますが…
以下の技術が史上最も大規模に用いられたのが、1944年のドイツ。
フィッシャー・トロプシュ法 - Wikipedia