- 作者:石鍋 真澄
- 発売日: 2010/06/01
- メディア: 単行本
バロック美術を代表する天才彫刻家、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ。80年以上にもなる生涯にわたって一線の力をもって作品を製作。劇場空間を作り上げる無限の発想力。それを実現する神懸かり的な技巧。有力な工房を作り上げ教皇の後押しを受ける人徳。すべてを兼ね備えた芸術家である。彼を活写することにより、反宗教改革期のローマ・カトリック世界までも俯瞰する。天才ベルニーニが力を存分にふるった結果生まれた作品群がローマにもたらしたものは、都市にとって第二の誕生とさえ言えるであろう。
ただ卓越した芸術家では一生涯に一つしか生み出せず、しかしそれをもって美術史に名を残せる程の傑作を多数量産した者の全記録であるため、素晴らしい密度の一冊となっている。日本語のベルニーニ研究書としてはこれがおそらく空前絶後のものである。
日本においてはミケランジェロと比してやや知名度が低いベルニーニであるが、ローマ・バチカンの旅に出る方は事前にこれを読んで予習することを強く推薦する。
素晴らしい本である。
箇条書き高密度化読書ノート
- 私がベルニーニの名を知ったのはTVで見た「アポロンとダフネ」(表紙作品)のすさまじき技巧、そしてそれを最大化する空間設計法の素晴らしさからである。その後に見た「プロセルピナの略奪」の神業により感動は決定的なものとなった。
- この番組である。 KIRIN〜美の巨人たち〜 2012年12月15日初回放送 ベルニーニ 「アポロンとダフネ」 http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/121215/index.html
- 移動しながら見ることを前提に設計されているため、動画で見ると良い。
- この番組である。 KIRIN〜美の巨人たち〜 2012年12月15日初回放送 ベルニーニ 「アポロンとダフネ」 http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/121215/index.html
- 「時間と空間の演出」がベルニーニ芸術の最も特徴的な点である。たとえば若年期の傑作「アポロンとダフネ」であれば、部屋の入り口から伸びやかな後ろ姿を見て、そこから中へと進み、彫刻の正面側へと移動するにつれ植物化してしまう悲劇の全貌と瞬間が明らかとなる。あたかも映画のように展開するのである。制作時に意図されていた配置は壁付けに近いもので見る方向が限定されているためにこのような表現が可能となっている。つまり、今美術館に置かれている作品群は真の力を発揮しきれていないのである。
- 建築物であるサン・ピエトロ広場では、歩みを進めるにつれ回廊により自然と視界は遮られ、その後に解放される緩急、そして視界内の建築物と彫像の演出により神の力を表現している。
- ベルニーニは最も優れた肖像彫刻家でもあった。白い大理石は現実の人間と異なり全く色彩が無いため、ある程度の「デフォルメ」がなければその人らしく見えないという。
- ベルニーニは舞台芸術も得意としていた。これもまた時間と空間を利用する表現のひとつである。性質上現存しているものはない。
余談・バロック美術といま
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バロック美術全体の出現経緯を少ないページ数で手早く紹介。終盤に代表例として詳細な解説が入るテッツィアーノは個人的にはそんなに傑出した作家だとは思わない‥‥