放課後は 第二螺旋階段で

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鋼と情報 「能力構築競争 日本の自動車産業はなぜ強いか」 藤本隆宏


自動車企業は、外観デザインや車体剛性といった設計情報を厚さ0.8ミリの鋼板という媒体に乗せて顧客に発信している。

 この本は市川絡繰 (@awajiya) | Twitterさんの影響で読みました。

 恒久的には続かない勝利と長らく言われながらも2013年現在も世界最有力である日本の自動車産業がなぜこうも強固になったのかについて経営学者である著者による抽象化と事例を集めた考察と記録です。ただし初版は2003年で韓国や中国の自動車産業の躍進前のもの。

 歴史小説とSFが一体化したような独特な視点があり、エントリ冒頭部の引用のように非常に大胆な発想に基づき、しかしそれが異常でもない。

 あまりにも独特すぎて理解しがたい、納得しがたい部分も多いのですが‥‥

 開発力すなわち設計情報を製品に複製し顧客満足を生み出す精度と効率を「商品力」として、それを高め続けるための社内システム全体の改善による不可視の競争力を「能力構築競争」とする発想が基礎となっています。

 ボトムアップの「創発的進歩」とそれを保持する力。

 ある組織を改善するにあたって、アメリカ人なら軍を研究すれば良いし、日本人ならトヨタ自動車の生産性を研究すれば良いという例でもあるかのようです。

■細々箇条書き

  • 日本が世界一の経済国家と云われていた1980年代でさえ、実際に有力だったのは産業全体の中でもごく一部。金融・流通・建設産業は能力構築競争における優位点を持たなかったためその後は不振が続いた。
    • いま日本で沈んでしまった産業といえば家電で、これは能力構築競争における蓄積的な敗北を喫した所であり逆キャッチアップ(たとえば韓国企業の組織的研究)が必要な局面ということになるのだろうか。日本の小型車に敗れたアメリカの自動車企業のように。
  • この能力構築競争は企業間にどれほどの差があるのか察知するのが事実上不可能である。そのため気づかない間に多大な製品力差がついたり過剰品質製品が生み出されるシステムが説明できる。
  • 日本が自動車産業で有力であるのは、自動車という製品が鋼鉄という情報を複製し難い素材を基礎とし、その内部の限られた質量空間に納める「閉鎖系すり合わせ」の系統であるためという。
    • この辺り経営学と日本人論の混在の感があって特に納得がいかないポイント。
      • 中国製オートバイなどは寄せ集めの部品で製造されているためオープンアーキテクチャ的であるという話が登場するが、今はもうその程度のものではなさそうである。
  • インピーダンスマッチング(この語法は合っているのだろうか?)が生産改善の目標の基本。工程ごとの狭間にできる情報・物資の進行速度のズレ、それによる待ちは無駄。すべてが切れ目なく進行する状態が理想。これがジャストインタイム。
    • 多大な数の部品がすべて揃わなければ自動車という製品は完成しないので、すべての納入タイミングを調節するには小ロットで頻繁に出すほかない。ジャストインタイム出現前は月末にならないと部品が揃わないため組み立て工程の負荷の波ができて無駄になっていた。
      • 一人の作業者が多数段階の工程を担当するのも、受け渡しによる負荷の波を無くすためのもの。工程Aが終わって製品が工程Bに移動する状況を想定すると、作業者が工程Aのみの担当では工程Bの間にすることが無くなる。
  • ボトムアップの「創発的進化」「改善のルーチン化」により改善されたと上の部署が察知するより前に改善完了している。
    • 創発的進化の対照に当たるのは「事前合理的な意思決定」これは普通に先読みしての計画。
      • 何事もそう合理的に思惑通りに進みはしないため、偶然の成功をうまく拾って保持する組織システムが作られているか否かで明暗が分かれる。
  • 一冊を通して、トヨタ以外では富士重工が高評価を与えられている。会社としてはごく小さな規模ながら劣らぬ製品を生み出すシステムの構築に成功しているため。
  • 今の自分の力ではこの本の話を一つの軸にまとめるのは不可能。
  • 内容と直接は無関係だが、ネット上の産業関係の話題は東京のソフトウェア産業関係者というごく一部のものにすぎず、その視点が全てであるかのような振る舞いが見られるのは異様であるとの思いを新たにした。