「任侠映画が流行していた頃、映画館から出てくる人は肩で風を切っていた」といいます。
レイトショーで見たこのカーアクション映画も近い感覚がありました。
私はバイク‥‥すなわち後輪駆動で、四輪車と比較すると相当に加速の良い乗り物で見に行ったものだから、帰り道は「スピード浴」をするために50km程遠回りして帰宅したのでした。
走るにはあまりにも遅い時間で、インカムで聞ける音楽はラジオ深夜便の古い古いものか、FMの曲紹介が一言も入らないような洋楽番組。真っ暗で誰もいないロードサイドでたまに見える灯りは24時間営業の少しあやしげな店。ハイスピードによる風切り音と周期的な気圧変化がパタパタと耳の鼓膜を叩く。そのとき、心はアトランタの20号線。ランドマークのない匿名的な都市を抜ける道。
以前より「1960~70年代初めのイタリアやフランスの犯罪エロチックコメディ映画が好き」と何度か書いていますが、それらの作品群がまさにその時代のイタリアやフランスであるのと同じように、今作は非常に現代アメリカらしい作品だと考えます。舞台になっている都市アトランタは世界的なランドマークがなく(少なくとも作中で印象的に映るシーンはありません)「あるアメリカの地方都市のお話」として抽象化されているのです。そこで車に乗るしかない人生、乗れない人生の交錯が描かれます。中心部はそれなりに栄えているけれど、幹線道路に乗ればすぐ何でもない空間である郊外へと行ける距離感からくる、ほんのささやかな夢の終わりの物語なのです。
作中に出てくる様々なモノの質感にもアメリカらしさが非常によく出ていて感動しました。ダイナーに吊ってあるモダンなガラス装飾照明の明かりしかない薄暗さ、高級レストランのテーブルの上のスタンドしか照明がない様などなど‥‥日本のコンビニ的な白さと全く違った世界で、昔アメリカの田舎の都市に行った時の事を思い出す空間の連続です。
話が少々前後しますが、アメリカの郊外は基本的に夜間真っ暗で、遠くに巨大なモールやスーパーマーケットの灯りが「浮き上がって見える」という極端に人工的な環境で生活をしている感覚が独特でした。
登場する自動車も、冒頭に出てくるインプレッサWRXとラストバトルのダッジ・チャレンジャー以外は趣味性の低い「どうでもいい車」がほとんどなのもまたアメリカを感じる要素です。そのどうでもいい車を次々乗り換えながら激しいアクションをする様に、安くて走れば何でもいい足車を使うアメリカの生活者感覚が重なって見えるのです。
ほか取りこぼしネタ
- 登場人物のキャラクター性がよい。マンガっぽいというのか、全体的にかなりデフォルメされています。
- 音楽は自分にとって専門外のものばかりなので、曲と映像のシンクロの面白さはあっても曲名等は全く分かりませんでした。
- テレビ映画で流れるのをみんなでワイワイ見てみたい。
- イタリアやフランスの古いコメディ映画みたいにノリが良くオシャレであり、さらに言えばシナリオも舞台をアメリカに移して適合させたようなものだという趣旨の文章を書きたかったのですが、「アメリカ地方の空間感覚」というテーマに上手く組み込まなかったためほぼ全カットしてしまいました‥‥。(可能ならばこれを盛り込んだものに書き直したい‥‥)