放課後は 第二螺旋階段で

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逆説的にエンジニアは戦闘機を作れないと知る「主任設計者が明かすF-2戦闘機開発 日本の新技術による改造開発」神田國一(FS-X設計チームリーダー)

主任設計者が明かす F-2戦闘機開発

主任設計者が明かす F-2戦闘機開発

  • 作者:神田 國一
  • 発売日: 2018/12/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

本書を読んだ経緯説明と総評

 元三菱・川崎・富士重工・防衛技術研究本部などの人々が「航空機設計の神髄が詰まっている」と評していたため読んだのが本書である。しかしながら、自分が受けた印象はむしろ逆で「航空機作りは設計能力でない」と事例により理解する事ができた形である。

 では何によって戦闘機を開発するのか?それは「組織の調整力」である。リーダーたる著者は朝7時から23時までの「セブンイレブン」労働と休日返上の英語学習により、三菱とゼネラルダイナミクスの間にたってのF-16F-2の設計調査・仕様調整、そして進行速度と育成を考慮したチーム作りを行い、それが仕事の90%以上を占めているのである。

 また、執筆関係の専門家ではないため本としてはあまりよい作りではない。

 かなり辛辣な評価をしてしまったが、脚庫扉の縁部分を分厚く作る事で高速飛行中の空力的破損を防ぐ方法をXT-2で割り出し、のちにF-16も同様のデザインになっている事を確認し満足したといったエピソードは興味深かった。単に飛行するだけの性能なら比較的容易に追いつけても、こういった細かな部分は一度自分たちで開発しないと意味が分からないものなのである。これは本書の視点を象徴する出来事であると思う。

 また、T-2CCVで積んだ飛行制御ソフトウェア開発能力により、リア・シーグラー社に外注する必要がなく不具合修正が手早かった点も興味深かった。類似する事例として、レーダーロックが容易に外れてしまうトラブルも、電子装備の機体へのフィッティング予算がアメリカとは比較にならないほどわずかであり、しかしながらそれを自国で低コストかつ速やかに修正できるというメリットがあるのである。

 垂直尾翼の強度不足問題も同様に比較的早期に解決する事に成功していた。

F-16 Block40から F-2 への改造は三菱にとって最も適していた?

 全く偏見の話になってしまうが、既知の事柄を学習するのが突出して得意なタイプのエリート技術者で固めた三菱は、F-16 Block40 の各部の設計経緯を把握する必要があるF-2開発に特に適合していたのではないか?という印象を受ける場面がままあった。完全新規設計により奇抜性・野心的な卓越性・原型機とあまりに違いすぎる性能特性を与えようとする場面はあまりみられなかった。

意外と属人的なアメリカのエンジニアたち

 F-2の開発中、離陸滑走距離の計算根拠がなかったためGDに問い合わせた所、資料は会社で持っておらず特定の個人に口頭で聞くようにと指示される場面がある。思いのほかマニュアル化の国でないアメリカである。

カナード廃止の経緯

 垂直カナードなどのいわゆるCCV装備が省略されたのは、機体のわずかなバンクなどを許容するだけでおおむね同様の性能が得られると分かったためである。カナードにより目標としていた機動は、DLC(Direct Lift Control)、DSC(Direct Sideforce Control)であったが、F-2に実装されたのは ME(Maneuver Enhancement)、DY(Decoupled Yaw)である。(いずれも若干あいまいな名付けとは思うが‥‥)