放課後は 第二螺旋階段で

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第二次世界大戦最強飛行艇といえば 「世界の傑作機 No.164 二式飛行艇」


 他国とは全く比較にならないほど高い飛行性能を持っていた世界最強の飛行艇、それが二式大艇です。
 本書ではその細部構造・高性能ならではの作戦・そして日本海軍における飛行艇史と新明和につながる系譜が紹介されています。
 
 設計上の最大の特徴は、おそらく艇体の幅の狭さでしょう。空気抵抗低減のため重量・艇体幅比は当時の理論限界値ぎりぎりのものを採用しています。さらに艇体ステップも特に短く、滑走状態での安定性に関してはかなり割り切ったもの。

 新明和の高性能飛行艇の始祖としてよく取り上げられていますが、このようにSTOL性に関しては特段考慮されておらず思いのほかUS-1系との共通性はありません。単に四発高性能飛行艇同士という位のもの。離着水は高速飛行に特化した分だけシビアな部類に入ると思われます。ウィンドシールドに描かれたライン、機首の上に伸びた横棒(通称「カンザシ」)、水平線の3つが一直線に見える向かえ角5度でなければポーポイズ等危険な運動が発生しがち。それでも妥協せず。

 総花的でない仕様設定が傑作機を生みました。


 以下箇条書きで‥‥

速度が最強

 最高速度は465km/hの快速。これは同じ四発飛行艇のショート・サンダーランドの336km/hとも全く比較になりません。少数配備のPB2Yコロネドでも360km/h。

 この数字は同じ1500馬力級の火星エンジンを採用した四発陸上機の深山をも上回ります。こうなると深山は何故全く失敗作に終わったのか謎です。元より重量過剰で失敗作のDC-4Eの胴体を細身に置き換えただけの機体にすぎないため一から作る事ができた二式大艇が優位になったとの旨で説明されてはいますが‥‥

航続距離が最強

 7100km以上で、広い太平洋戦線でも難なく捜索可能。ほか物資や要人の輸送など用途は無限です。

 試作機を転用し量産機と若干デザインの異なる要人輸送機「敷島」が現存写真数最多。

レーダーが最強

 搭載レーダの三式空六号無線電信機は150kmもの距離にある艦艇・航空機を発見できるほどの高パワー。基地配備に転用されるほどです。

 この機器については構造・仕様が非常に細かく具体的に解説されています。

高速着水性能が最強

 滑走中の安定性に関してかなり割り切っているためか、試作型から量産型へと進むにあたってキール状の艇体後部フィンが取り付けられています。ほか、本機の特徴として有名な、高速滑走中に起こる強い波を崩す艇体前部の出っ張り「カツオブシ」など細かな配慮により、適性仰角を保っている限りは問題なく離着水できる設計です。

 これに関しては第二次世界大戦後にテストを行ったNACAのレポートの抄訳・意訳的な解説で比較的わかりやすく書かれています。プロペラやエンジンが飛沫を浴びて破損しないように非常に適切に設計されています。

 艇体と翼の間を補強する機内のV字型ストラットはUS-1系にまで引き継がれているという。

キール型のフィンは側面図を、速度向上のために限界近くまで切り詰められた艇体幅は正面図を参照。このイラストは主翼フロートを折りたたみにした試作のみの「二式大艇二二型」をモデルにしているため細部は量産型である一二型と異なる。(出典:二式飛行艇 - Wikipedia

整備性も最強

 エンジン近くの翼の前縁には折りたたみ式の足場があり、水上でも整備が容易。

運用がけっこう怖いぞ二式大艇

 係留関係の作業やエンジンの調整では、乗員が翼の上を歩いて行く必要があるものが多数です。

戦歴について

 開戦時に日本海軍は3コ飛行艇隊を保有しており、うち1つが1942年段階でガダルカナル島の戦いで地上要員もろとも消滅したという損害はかなり衝撃的です。

 ハワイを長駆再攻撃するK作戦は非常に興味深い。

本書の構成全体に対する苦言

 一言で言うと「編集部も執筆者も自分が何を書いているのか恐らく理解していない部分が多すぎる!」

 日本海軍の戦闘システム全体や航空機としての全体性をほとんど考慮せず部分部分の専門家が書いているのか、細部にやたら詳しく前提知識のレベルが極端に高くなっている部分と、詳しく書くべきであるにも関わらず流している部分の差が極端に激しい一冊となっています。さらに、この機種固有の専門用語(たとえばカンザシやカツオブシ)が何の解説もなく多数登場し、それが何でどのような意味のあるものなのかは本の終盤で短く解説されるだけである事すら多い順序の概念がないものとなっています。

 歴史的解説に関しても時系列の前後や重複が著しく多いです。これらにより本としては破滅的なレベルで文章と構成が悪く、制作中にスタッフが一度も通して見なかったのではないかと思う程。喩えるなら戦争経験者のおじいちゃんの話を聞いているような感じです。情報としては貴重でも思いつくままに展開するので訳が分からない‥‥隔月で刊行ペースが速いとはいえ「自分が編集者なら全部書き直させるか、過労になってでも書き直している」とさえ感じてしまいました。非常に興味深い機種を扱っているにも関わらずこの本が訳分からない苛立ち(?)でこのエントリもやたら長くなりました。

 本としてはおそらく旧版↓の方がよく出来ているかと思います。

正誤に関する不安事項

  • WikiPediaには「超々ジュラルミンを採用」(A7075)と書かれていますが、それはESD(Extra Super Duralumin)で、この機に使われているSDは単に超ジュラルミン(A2024)のはずです。こちらは九六式艦上戦闘機の時代から実用化されています。耐食性低い超々ジュラルミンでこう長い間屋外保存されていれば経年劣化で桁破損しているかと思います。
  • 特定の筆者の文中に何度も出てくる川西が導入した機材「桁スライス盤」は「桁フライス盤」の誤りで、中央翼の長い桁を一つの長大な超ジュラルミンの棒から削り出して作っているという事では?繰り返し出てくるため気になります。全く意味が分からないまま書いている?
  • 新明和のエンジニアが書いた記事はたいへん貴重な証言ながら、専門的過ぎて編集部が全く内容を理解できないまま載せているように思えます。この機種ないしUS-1系固有の用語を説明なしに載せているため解説としては‥‥。(意味が分からないので教えて下さいと正直にメール等で連絡すべきです)

専門的過ぎて特に不明の度合いが高かった既述

 何が分からないのかすら分からなかった既述を除くと‥‥

  • 巡航速度設定とそれへの最適化設計について

また当時のピストン・エンジンの場合、Take off power 60%連続使用可能なエンジンは非常に少なく、だいたい50%くらいが普通であった。

これは離昇出力の50%が今でいうところのミリタリー出力(常用最大)という事?高出力は熱的に出し続けられない?燃費的に出し続けられない?理由が一言も触れられていないため気になります。

  • US-2の製造法について

削り出した後のコンタ成形は、熱間成形(エージ・フォーミング)または冷間成形(ショットピーニング)である。

 コンタ成形とは一体‥‥?と思えば、ようはコンタリング加工すなわち等高線的な形の削り出しだと分かりました。この後の工程は文字では具体的に把握できず。特にショットピーニングを表面処理・硬化処理でなく成形に用いるという点。(ほぼ航空機向けでのみ行われているもので、加工で生じる変形を積極的に用いるようだ)

  • US-2の α・β 矢羽計って何?

 最後まで読んでも一言の解説もなかったため構造等理解できませんでした。とにかくこの本は解説なし進行が多いです。

  • 艇体のステップの長さについて

 飛行艇そのものが現在ほぼ廃れた機種であるうえ理論的な解説が少ないため、なぜ後段が特に短い二段ステップがこの高速機に最適であるのかは理解し難いものでした。(プレーニング状態の浮き上がり方に応じて接水部が変化するのを利用して、抵抗を低減するのみならず、バランスを調整しているといった概念は何となく分かるが‥‥)

 

関連エントリ

日本の四発機も、国籍問わず飛行艇も共に限られるため、独自性の高い内容が特に多く、系譜的につなげられる機種は現在ありません。

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