- 作者:ポール・T. ギルクリスト
- メディア: 文庫
神さま、どうかへまをやりませんように。自分の失敗のせいでなければ、死ぬことはちっとも構いませんから!
T-6テキサンの海軍型 SNJ から始まり、歴史的な F6Fヘルキャット、T-33 の海軍型 T2V、極初期のジェット艦載機 F9Fパンサー、後退翼で音速突破可能な F9Fクーガー、最後のガンファイター F-8クルセイダー、CAG(航空団司令)として飛ばす F-4ファントムII と A-7 コルセアII、トップガンの指令として F-14トムキャット と F-16N ほか多数に触れた著者による、アメリカ空母ジェット艦載機の誕生から完成までを描く回顧録です。
1950〜1970年代の空母艦載機乗りの生き方について、おそらく最も多くのエピソードを収めた本でしょう。20世紀後半の海軍航空特有のゴージャスな雰囲気が全編に漂っていて愉快なものになっています。
ベトナムでの戦闘飛行以上に恐ろしいのが荒天と夜間の着艦で、数知れない仲間たちが目の前で激突、爆発炎上して死んでいきます。それでも著者は決して怖じ気づいたりしません。艦載機乗りが恐れるのはただ自分のミスのみ。
細かめのメモ
- 特に気になった情景は‥‥
- 30ノットで風上に走る空母飛行甲板の強烈な風圧の中で動き回る甲板の兵たち
- 待機中に降りかかる荒波の塩で曇るキャノピー
- 荒天での着艦後、キャノピーを開けた瞬間に浴びる日本海の豪雨
- ベトナム戦争、防空システム対策のため稜線から稜線へと旋回を繰り返し隠れながら飛ぶ航空打撃チーム
- 実戦経験がなく、その事をしっかり認識している新任 CAG が「幾度もの戦闘航海を経験した君たちが初めて出撃する私の指揮下に入る事に不安に感じる者もいるだろう。だが大丈夫だ。なぜなら私が CAG だからだ!」という演説により一挙に人望を集め、その直後の任務で SAM 直撃により即死
- 燃料残り僅かな状態での夜間空中給油タンカーパイロットは危機の重大性に気づかずのんきなもので、この危機を越えた後も暗闇への着艦が続く
- 着艦直前に燃料投棄バルブを誤って開き燃料をばらまいた後アフターバーナー全開でゴーアラウンドして飛行甲板を火の海にしてしまった F-4
- 燃料残量を無線で伝える場合は 2.5 で 2500lb のように1000ポンド単位。0.8辺りになると機の命も風前の灯火。
- アングルドデッキがイギリスで考案されたのは対潜任務を中心にしていた事による。対潜哨戒機は滞空時間が長いため離着艦の頻度が低く、行動時間を正確に設定できたため、甲板前方の給油・発艦スペースが狭まっても構わなかった。アメリカでは戦闘機と攻撃機が中心であるため、ゴーアラウンド不可であっても出撃テンポ向上を狙って前甲板を確保するため導入に慎重。
- ギャビン・ライアル「ちがった空」にも出てくる地中海の米空母は、エジプト発イタリア・ギリシャ間チョークポイント公海経由ユーゴスラビア沿岸アドリア海行きのソビエト軍 Tu-16バジャー の捕捉が主な任務の一つ。
- 著者が CAG を務めたのは1960年代後半から1970年代前半にかけてのフォレスタル級空母サラトガの第3航空団「バトルアクス」
関連エントリ
本書の著者が CAG 時代に搭乗した機体。着陸が難しい事で有名な F-4 と比較して「着艦が簡単ではなかった」と評している。推力が少なめだったためだろうか?
ベトナムでの護衛対象。CAGになってからは試乗も。切り詰めた機体のためか、爆装時の性能落ち込みが大きかったらしい。