亜音速機でよく使われている翼断面型「NACA翼型」の読み方がようやく分かってきて、平易な日本語で簡潔に解説しているサイトがあまり見あたらなかったので「ぼくが書かねば誰が書く」な長めのメモエントリ。
NACA翼型って、航空関連書籍ではポンポン出てくる割に読み方を解説してくれないから、航空ファンになってからはっきりとした意味を知るまで何年もかかってしまいました。
「間違っている!」と思った場合は、コメント欄でできる限り具体的に指摘をしてください。
用語集 / NACA翼型を読む前に
- 翼弦
翼の前縁と後縁を結ぶ直線のこと。
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- 翼弦長
前述の翼弦の長さ。
翼断面図の、翼上面と下面の中心線と翼弦の距離と、翼弦長との比。%で表される。
数値が大きいほど上面が膨らみ下面が平面に近い(あるいは凹んだ)形になり、最大揚力係数が増す代わりに高速時の抵抗が増す。
0%なら上下対象で水平飛行時と背面飛行時の特性が同じになる。
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- 最大キャンバー位置
前述のキャンバーが最も大きくなる位置のこと。
翼前縁から最大キャンバー部までの距離と、翼弦長との比率(%)で表される。
大きければ大きいほど翼の上で気流が綺麗に流れる距離の割合が延び、抵抗が減少する。
その代わりに、失速時の特性が悪化し、最大揚力係数が低めになる。
- 揚力係数
ある面積の翼に当たる、ある流体のエネルギー(エネルギー量は翼に対する流体の速度と密度によって決まる)が、揚力に変換される比率のこと。
失速するまで仰角に比例して増加する。
大きいと、翼面積の割に大きい揚力が出せ、低速でも大きい揚力が出せ、低速の離陸や急旋回が可能。
この数値単体で見れば、大きければ大きいほど無条件に良い。
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- 最大揚力係数
前述の揚力係数の限界値。
これを越える揚力を出そうとすると失速に陥り揚力を失う。
この数値単体で見れば、大きければ大きいほど無条件に良い。
- 抗力係数
ある前面投影面積の物体に当たる、ある流体のエネルギー(エネルギー量は翼に対する流体の速度と密度によって決まる)が、抵抗に変換される比率のこと。
この数値単体で見れば、小さければ小さいほど無条件に良い。
- 揚抗比
揚力係数を抗力係数で割った数値。大きいほど大きい揚力を小さい抵抗で発生させられる。
4桁系列
「NACA2315」といった形。
- 1桁目:最大キャンバ(%)
- 2桁目:最大キャンバ位置(翼弦長と前縁からの距離を基準にして10%刻み。1なら10%、2なら20%)
- 3,4桁目:最大翼厚比(%)(最厚部で翼弦長の何%の厚みがあるか)
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- 実例:メッサーシュミット Bf109/Me109シリーズ:NACA2314〜NACA2315
最大キャンバ2%、最大キャンバ位置30%、翼厚比14〜15%
高速性に賭けた機種ですが、スピットファイアと比べると案外厚い翼。それでもキャンバ位置はかなり後ろで抵抗低減に頑張っています。軽量高強度を狙ってのデザインなのでしょうか。
(翼は厚いほうが内部構造が楽になる分軽く仕上がる)
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- 実例:スピットファイア シリーズ:翼中央部NACA2213 翼端部2209.4
翼中央部:最大キャンバ2%、最大キャンバ位置20%、翼厚比13%
翼端部:最大キャンバ2%、最大キャンバ位置20%、翼厚比9.4%
第二次世界大戦中に実用化されたレシプロエンジン機の中で最も音速に近い速度まで耐えられたのはスピットファイアです。この薄い翼のおかげなのでしょうか。翼端部の薄さは相当なものです。
最大キャンバ位置は比較的前で、格闘戦でもそこそこ強そうな印象。
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- 実例:P-51ムスタング
「層流翼」で有名なこの機種のNACA翼型は分かりませんが、「最大キャンバ位置」が「40%以上」という極端な後ろに設定されていることは確かです。これが「層流翼」
この翼のメリット・デメリットは上の「最大キャンバー位置」「揚力係数」「最大揚力係数」の項あたりを読めば概ね解決。他にも、翼の表面を常に平滑に保って気流を乱さないようにしておかないと急激に性能が低下するというデメリットもあります。
実際、P-51ムスタングは見た目のスマートさの割に、高速域(=翼に当たる気流の量が多い時)以外での機動性はかなり低い部類だったようです。速度を失わないようにすれば良いとか、イギリスやドイツの機が低速でも機敏すぎるだけと見ることもできますが……
5桁系列
「NACA23012」といった形。
- 1桁目:最大キャンバ(%)
- 2桁目:最大キャンバ位置の1/5の値(15%なら3など)
- 3桁目:中心線の形(0だと後半が直線、1だと後半で反転) (反転=下に凸になるように反っている)
- 4、5桁目:最大翼厚比 (最厚部で翼弦長の何%の厚みがあるか)
- NACA23012なら……