
- 作者:三浦耕喜
- 発売日: 2009/01/24
- メディア: 単行本
冬といえばドイツ空軍の本土防空戦なのでこの本を読了。
ナチスに言論の自由を許さない現代ドイツにおいて忘れ去られた存在となった「エルベ特別攻撃隊」隊員の体験と戦後社会の受容を描いた一冊です。
前半は当時を歴史小説調に描き、中盤は現代ドイツ社会のナチス時代観、後半は当事者のインタビューまとめを掲載。兵器・戦史系出身ではない新聞記者の筆者ならではの構成となっています。
ドイツの特攻隊は何故忘れられたのか。日本の特攻隊は国体に対する責任追及が無かったため「国のために命さえも捨てた」として今も美談として扱われていますが、ドイツでは「ナチスのために命さえも捨てた狂信者」としての追及を受けるため、今のように一般に知られることのないままに時は過ぎていったといいます。
戦後ドイツのナチス時代についての積極的忘却。
例えば、ノーベル賞受賞の作家ギュンター・グラスは第二次世界大戦時に武装親衛隊に志願して戦ったことを2006年に公表し議論が巻き起こりましたが、家族や友人知人はすでにそのことを知っているはずでした。ですが何の行動も行われず、武装親衛隊の所属歴が書かれた指紋入りの捕虜カードも軍人恩給名簿も現存して、不特定多数の人物が見たはずなのに、誰も何の行動も起こさずにその年まで秘匿できてしまった。
そんなドイツ社会とは、歴史観とは、一体?
たとえ戦争犯罪者であろうとも、彼らを完全排除してはドイツ社会の再興は絶対不可能であった。それがために巨大な空洞を抱え続けているのです。
ドイツを守るために多数の特攻作戦を発案し第二次世界大戦を闘いぬき、戦後には弁護士となりネオナチを支援した空軍幹部ハヨ・ヘルマンの2008年段階での発言が重い。
だが、今日のドイツはブタ小屋同然で耐え難い。こんな国は世界でもひとつではないでしょうか。シュレーダー前首相はノルマンディー上陸作戦の記念式典には出席したが、その隣にあるドイツ兵士の墓所には行かなかった。日本では古き文化が守られ、首相が靖国神社を参拝しているのとは正反対です。ドイツは組織的政治マフィアによる暴力的政治が横行しています。例えば、NPD(ドイツ国家民主党、ネオナチ系)は会合の場所さえ借りられない。こんなのは思想信条の自由でも民主主義でもない。言わせてもらえば、私は今のようなドイツに属していることを好きになれません。
ナチス発祥の地・オーストリアの有力ネオナチ政治家イェルク・ハイダーは2008年にあまりにも「よいタイミング」で事故死した。葬儀には大統領・首相が出席し、国軍兵士の隊列が組まれるなど国葬級の扱いであった。
細か目の話ノート
エルベ特攻隊は空軍単独によるたった1回の作戦で特に目立った成果もなかったため、戦史上の位置づけは小さなものとしか考えることができませんでした。
- 日本軍の特攻第一号となり「僕のような優秀パイロットを殺すなんて、日本はお終いだよ」発言を残した関行男大尉は1944年の当時弱冠23歳。
- ドイツ軍は、日本軍の誤認による特攻作戦の異常大戦果を現実のものとして受け、体当たりを検討するようになったという。
- エルベ特攻隊は2000機をもって1機1殺の精神で巨大な空対空特攻作戦を行う計画であった。そんな数の戦闘機を用意する術はドイツには無かった。
- オーデル川にかかる橋を落としソ連軍の渡河を阻止するための体当たり作戦も登場。この手の作戦は有人戦闘機と無人爆撃機を使った巨大な親子ミサイル「ミステル」を使うものとばかり考えていた私は甘かった。
関連エントリ
Me262装備部隊は共同でエルベ特別攻撃隊の護衛を行った。そのシーンがほんの1ページ程度ながら登場。