放課後は 第二螺旋階段で

モバイルでは下部のカテゴリ一覧を御覧ください。カテゴリタグによる記事分類整理に力を入れています。ネタバレへの配慮等は基本的にありません。筆者の気の向くままに書き連ねアーカイブするクラシックスタイルのなんでもblog。「どうなるもこうなるも、なるようにしかならないのでは?」

「順列都市 Permutation City」 グレッグ・イーガン

順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
Amazon.co.jp: 順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

順列都市〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)
Amazon.co.jp: 順列都市〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)


\lim_{x\rightar{0}}f(x) \times \infty \neq 0


 近未来、資産家たちは自分の人格データを「スキャン」しコンピュータシミュレーションとして生きることで永遠の生を手にしていた。
 だが、その生はコンピュータの計算能力に頼った物でしかないために、外世界よりずっと時間経過が遅いものしかなかった。また、コンピュータを維持できなければ存在も無くなってしまうという不安定さも持ち合わせたものだった。
 そんな世界で奇才ポール・ダラムは「塵理論」を編み出し、それにより完全に外世界から切り離された真の永遠の生を作り出し、シミュレーション人たちの世界を根本的に作り替える。

 「無限大」に広がる「塵」の中から「偶然」紡ぎ出される「個」、その確率はあまりにも低い。けれども「個」はそれの確率を「低い」と「認識」することはできない。また、「個」はそれぞれの「個」の「順列」を「認識」することができない。瞬間と瞬間が外世界時間で繋がっている必要が全く無いまま、決定された「世界の解」の組み合わせのみで連続性を維持する「塵理論」の世界。



 グレッグ・イーガン作品は難解と言われていますが、この作品の根幹になっている「塵理論」については一つ一つ段階を踏んで解説するように展開してくれて、その後やっと実行されるのでかなり体感しやすいものになっていると思います。そして、思考実験として面白かった。

 「ディアスポラ」は難解さのあまりに投げてしまいましたが、こちらはだいぶん親しみやすい印象です。無学歴の自分でも一応読み切れました。


 「想いの力」だけでアイデンティティの全てを変えられる塵理論世界に極限まで適応し、あるときは最高の木工を目指し16万2329本のテーブルの足を作り、ある時は世界最高の数学者を目指し全ての数学書を読破しいくつかの発見をし、ある時は最高の作家として300の悲喜劇の台本を書き、ある時は脳の構造と生化学的特徴を67年間研究し続け、興味の方向を制御しながら常に何かに打ち込み、常に変わり続けた最底辺の塵世界住人「ピー」は他のどんな登場人物よりも「先進的」で、彼こそがこの作品世界をもっとも強くあらわしている人物だと思って気に入ったんですが、シナリオのメインストリームには殆ど絡まなかったのは非常に残念でした。




どうも納得がいかないところ

  • 無限に世界が生産されるのなら、それをわざわざスタートをさせる作業が何故必要なのか分からない。世界をスタートさせるのには「想い」だけでも十分なのでは?「塵理論」が本当に正しいのなら、スキャンすることさえ必要無いのでは?
  • 塵理論世界で時間を進め生きるのに使われる計算リソースに分配格差を作ることが可能なのは何故なのか分かりません。最低限住人「ピー」と最高住人「マリア」たちとの間にどれだけ違いがある?
  • 塵理論世界の中でランダムさを得て独自の進化を遂げたランバート人世界のせいで、決定論的な塵理論世界が崩れるという理由が分かりません。共存し続けられるのでは?説得力(確率)で負けてしまうから駄目ということ?


 理屈小説なので理屈が通るかどうかを考え続け、その結果かなりひっかかって、読了後は宿題小説になっちゃった。

2007年2月16日の追記

 以上の疑問を非常に分かりやすく解説したエントリを見つけたのでリンクします。
グレッグ・イーガン 順列都市 - かせいさんとこ
 ランバート人世界(オートヴァース)が塵理論人間世界を壊してしまう理由は特に分からない問題だったんですが、これではっきりと納得することができました。
 自分の1番目の疑問はリンク先のQ3と似ているけれど、自分のものは「観測者でろ!」とお祈りしたらただそれだけで一つの主観が現れてしまうのではという意味合いなので、ここを読んでもそれでもまだ割り切れなさが解消できていません。


Amazon.co.jp: 順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
Amazon.co.jp: 順列都市〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)