放課後は 第二螺旋階段で

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World of tanks 主人公格の実際 「KV-1 & KV-2重戦車 1939-1945 オスプレイ世界の戦車イラストレイテッド10」 スティーブン・ザロガ ジム・キニア イラスト:ピーター・サースン 翻訳:高田裕久

「仕留めた!」砲兵たちはそう思い、安堵した。
「そうだ!俺たちが仕留めたぞ!」砲兵大尉が言った。
しかし、誰かの叫び声は、彼らの表情を急変させた。
「おい、また動き出すぞ!」
その言葉を疑う余地すらも与えてもらえず、きらきらと輝く履帯が迫ってきて、重榴弾砲はまるでオモチャのように踏み潰され、地面にめり込んだ。怪物があらゆるものを踏み潰す光景は続いた。あたかもこれが自然の摂理であるかのように‥‥

 最近ベラルーシマルチプレイ戦車戦ゲーム World of Tanks にハマっています。今作で主人公のように強くキャラクター付けされている戦車が KV-1。装甲が厚く火力も高いクラス最強の車両となっています。気になったのでこの本を読了。

 KV はクリメント・ヴォロシーロフという当時の軍司令官由来とさえ知りませんでした。今の名声は戦車の名前になるほどではない。

 なぜゲームで優遇されているのかについては、1941年段階ではベラルーシの第6機械化軍団が保有数最多で、自国のヒーローだったと判明しました。

 ティーガー登場以前、ドイツ軍はチェコ製の 38(t) を愛用してIV号戦車は短砲身の頃に出現したこの90mm装甲は、I-16時代に出現した零戦くらいに性能と思想で隔絶していたのではないでしょうか。88mm対空砲以外は貫通しません。

 戦場では悪魔的に強力なこの車両も、車重が重すぎて落後したり、橋を破壊するなどして味方の邪魔となる事が多かったとのこと。これにさらに35mmアップリケ・アーマー(エクラナミ)までボルト止めしまってはオーバースペックです。
1/48 ソビエトKV-1重戦車 (増加装甲型)
 エクラナミを装着した 1941年型KV-1E の姿


 そのため開発された KV-1S は装甲を削って重量軽減、弱点だったクラッチトランスミッション系が改善され T-34 クラスの機動性を持ったものの、特徴が無くなったせいか 1942年8月 に制式採用されて 1943年4月 に生産終了する短命さ。

 装甲だけが全てを解決する!

箇条書きメモ

  • 主砲は3種類。
    • 76.2mm L30.5 L-11
    • 76.2mm L39 F-32
    • 76.2mm L41.5 ZIS-5 (T-34 の F-34 と同じ。最多量産)
  • この車両でも性能不足になる100mm砲搭載車がドイツに出現すると考え76.2mm砲弾の量産を滞らせてまでして 107mm ZIS-6 を開発させたクリーク元帥という人物の思考は謎。KV-1 でも既に道路限界に達するほどなのに。今から見ると半端口径の 107mm ZIS-6 搭載車両は実用車無しか。
  • これを読んでもまだ車体装甲厚がよく分からない‥‥
    • 初期型 砲塔正面 90mm 同側面 75mm
    • 新砲塔 砲塔正面 120mm 同側面 95mm
  • KV-1 初期の標準乗員配置は 車長兼装填手・砲手・後方機銃手・操縦手・無線手兼車体機銃手。多砲塔戦車の名残か。後方機銃があるのはソビエトか日本の戦車だけというイメージあり。(共通点はノモンハンの戦い経験者)
  • 砲塔上面のハッチは車長の配置と何ら関係なく後方機銃手の上にあった。つまり戦闘時の視察に全く使えない。
    • ドイツ軍の鹵獲車では、新たに穴を開けてキューポラを増設した車両あり。このドイツ用キューポラ、視察窓が無い本当にただのキューポラ型のものがあり有効性に疑問が。(胸壁になり目線高さを稼げる?)
    • KV-1S で追加された近代的なペリスコープ一体式キューポラは何故か上面にハッチが無かった。どういう神経の設計なのか不明。
  • ペリスコープは基本的に砲塔の周縁に沿って配置されていて、多方位の視覚情報を統合することがきわめて困難なものとなっている。
  • 1941年 63万5000ルーブル → 1942年 29万5000ルーブル → 1943年 22万500ルーブル というトヨタ車以上級のコストダウンぶり。
    • 現代の自動車も生産開始時は販売価格と差が小さく、2年目以降は格安製造価格そのままに利益を確保?
  • WoT に出てくる SU-100Y とは‥‥? この本では KV-1 の車体の前身となった T-100重戦車 の試作車を改造して作られた SU-130Y の記録あり。
    • Y はラテン語のYを表す Igrek (で、なぜ Y なのか?)
      • ゲームでは大面積で直立する側面部を大口径榴弾で狙撃され破壊される事がきわめて多いため妙に弱体な印象あり。
  • 日本におけるソビエト戦車研究家の頂点の一人、マキシム*1高田裕久の翻訳は訳注による本文修正が非常に多く、たとえ英語を難なく読めたとしてもこの日本語版を選ぶ価値があります。
    • ソビエト車というのもあるだろうけれど、論理展開が明快でない構成のため頭に入れづらい本です‥‥

*1:Hobby Modelbau Maxim, ホビーショップマキシム http://maxim-tank.com/